本研究では視覚情報のみで体温調節機能が働くかどうかを検討した。没入型ヘッドマウントディスプレイで暑熱・寒冷映像を観察させ、指尖皮膚温をサーモグラフィーを用いて計測した。ベースラインとして室内の映像を5分間観察させた。次に暑熱映像として火事、燃える惑星、砂漠の映像を合計5分間、寒冷映像として氷山、吹雪、雪原の映像を合計5分間観察させた。寒冷と暑熱映像の視聴順序は参加者ごとにカウンターバランスがとられた。各映像観察時の左手の人差指先端の皮膚温を測定した。指尖皮膚温の1分間ずつの平均値を算出しベースラインからの変化率を求めた。実験の結果、観察開始から1—3分間は映像による指尖皮膚温に差は認められなかったが、4分以降は暑熱映像よりも寒冷映像を観察していた時の方が指尖皮膚温が高かった。したがって没入型ヘッドマウントディスプレイによるバーチャルリアリティ体験が体温調節系にも作用することが示された。