抄録
本研究の目的は,失敗エピソードのうち,失敗に気づいた時の感情や思考に関する語の使用傾向を明らかにすることであった。大学生450名に「自分の大きな失敗」「自分の小さな失敗」「他者の大きな失敗」「他者の小さな失敗」のいずれかのエピソードを想起させ自由記述を求めた。自由記述について階層的クラスター分析を行った結果,「精神的ショック・落胆」「驚き」「同情」「焦り・絶望」「恥・後悔」「申し訳なさ」の6カテゴリが抽出された。自由記述における感情語をカテゴリ分類し,失敗エピソードによって感情語の出現の有無に相違が認められるのかをフィッシャーの直接確率計算をもとに検討した。その結果,すべてのカテゴリにおいて,失敗エピソードによって感情語の有無に有意な偏りが見られた。失敗に気づいた時の感情や思考に関する語の使用傾向は,失敗の大きさや失敗行動の自他によって相違が見られることが示された。