抄録
学習時に「忘れる」よう求めた項目の忘却が生じるという現象は指示忘却として知られている。指示忘却では忘却だけでなく抑制対象の価値低下を導くことも明らかになっている。本研究では,指示忘却による食物評価の低下に関して,実験室での実験結果のオンライン実験による再現(実験1),食べたさ評価を対象とした場合の検討(実験2),元々の評価が忘却指示後に低下するのかを検証するプレポスト実験(実験3),評価低下メカニズムの解明(実験4)という一連の実験を実施した。実験の結果,「覚える」よう求めた食物画像よりも「忘れる」よう求めた食物画像の方が主観的な美味しさや食べたさが低くなり,この低下は元々の評価が低下することで生じていることが示された。一方で,メカニズムの解明は今後の課題となった。本研究は食物評価という摂取する食物の選択に関わる意思決定過程に対して,記憶過程がその評価の低下に関わることを明らかにした。