抄録
近年,普及が著しいオンライン講義や動画配信サービスでは再生速度が視聴者側で可変である。講義動画の視聴では,1.6倍速視聴と1倍速視聴の場合で内容理解に差がないことが知られている(Wilson et al., 2018)。しかし,情動喚起動画を視聴する場合,視聴体験として気分変化が重要だが,再生速度がこれに及ぼす影響は検討されていない。そこで本研究は,情動喚起動画において再生速度が気分変化に及ぼす影響を検討した。参加者は怒り,悲しさ,楽しさを喚起する個別の動画のいずれかを,1.0倍速あるいは1.6倍速で数分間視聴し,視聴の前後で覚醒度と感情価を報告した。情動種類毎に,覚醒度と感情価について2(速度: 被験者間)x2(視聴前後: 被験者内)の2要因混合ANOVAを行ったが覚醒度及び感情価の両方で再生速度の主効果は見られなかった。このことは,喚起される情動という点において1.6倍に増速した動画は等速視聴と同等の視聴体験が得られることを示唆する。