日本認知心理学会発表論文集
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口頭(知覚・感性)
  • 山口 茉優, 杉森 絵里子
    セッションID: O_A01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は,自閉スペクトラム症(ASD)傾向と自己および他者の顔認知の関連について検討した。自己顔に対するこだわりの強さを調べるため,大学生・大学院生65名が,無加工自己顔と4種類の加工自己顔をそれぞれ「どれくらい自分の顔らしいか」7件法で回答した。また,他者顔に対するこだわりの強さを調べるため,同様の参加者が,知り合いではない他者の顔を10秒間動画で見た後,無加工他者顔と4種類の加工他者顔をそれぞれ「どれくらい呈示された他者顔らしいか」7件法で回答した。その後,自閉症スペクトラム指数に回答した。結果,ASD高群は低群よりも有意に加工された自己顔に対する「自分の顔らしいか」評価値が低いが,ASD高群と低群の間で加工された他者顔に対する「先ほど呈示された他者顔らしいか」評価値に有意な差はみられなかった。つまり,ASD傾向は自己顔へのこだわりの強さに影響するが,他者顔には影響しないことが明らかになった。
  • Zhuojun JIANG, Suguru YORIOKA, Chika YAJIMA, Takao FUKUI
    セッションID: O_A02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,参加者自身の顔と同性他者(友人あるいは未知の方)の顔とのモーフィング画像を用いて,顔認知の自他判断課題における親密性の影響に加え,ウィズコロナの中で着用が習慣化されたマスク着用の有無の影響も検討した.参加者は,(自己・友人間のモーフィング,自己・未知間のモーフィング)×(マスクあり,マスクなし)の4つの実験セッションにおいて自他判断課題を行った.モーフィング画像は,自己・他者の割合により15種類用意された.その結果,閾値(自他判断の正答率がチャンスレベルになる時のモーフィング画像に含まれる自己の割合)は,友人とのモーフィング画像条件の方が未知条件より低くなる傾向が認められた.
  • 吉田 階, 関根 和生
    セッションID: O_A03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    時間という抽象概念は,具体的事物(時計やカレンダー)や言語によって表現されるだけでなく,自発的な身振りによっても表される。先行研究によれば,複数の事象の時間関係(例:朝起きてから寝るまでの出来事)を語る際,話者は直線的もしくは循環的な身振りによって事象の時間的関係を表現する。また,そうした直線もしくは循環の身振りが,それを観察する聞き手の時間表象に影響を与えることもわかっている。だが,時間はある方向をもって進むことを鑑み,本研究では,話者の身振りの形のみならず方向も操作し,それらが聞き手の時間的関係の理解に与える影響を検討した。結果として,直線身振りを見た観察者はその方向によらず,左から右に時間の流れを捉える傾向にあるが,循環身振りを見た観察者は方向の影響を受けた。これは,右方向への左から右という時間の流れに関する文化的慣習が強く影響した結果だと考えられる。
  • 西溜 優大, 鈴木 健斗, 福井 隆雄
    セッションID: O_A04
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    VR空間上の衝突イベントにより視覚的に誘発される触知覚生成において手・物体のインタラクション様式が及ぼす影響を検討した.参加者は,VR空間に提示されている水平に延びる円筒型パイプに触れている手腕モデルと一致するように自身の手腕を置いた.円筒型パイプの中を灰色の円柱物体が左から右に一定の速さで動き,手腕モデルに衝突する位置で初速度から1/10, 2/10, …, 9/10, 減速なしの10段階に変化した.手腕の位置関係について「試行開始直前に手腕モデルが見えなくなる」条件と「パイプが手腕モデルの奥にもう1本存在し,そのパイプの中を接触物体が移動する」条件も設定した.各試行後に触知覚強度について回答してもらった結果,減速率が大きいほど主観的評価値が高くなり,さらに,手・物体の視覚的衝突がある条件で他の2条件に比べ有意に主観的評価値が高くなった.
  • 宮崎 由樹, 鎌谷 美希, 須田 朋和, 若杉 慶, 松長 芳織, 河原 純一郎
    セッションID: O_A05
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    不織布マスクの使用は着用者の社会的印象に影響する。しかし,先行研究は視覚手がかり(顔)のみを用いており,不織布マスク着用によって損なわれ,かつ社会的印象にも影響する聴覚手がかり(声)の影響について検討されていない。本研究は,声の手がかりの影響も検証するために,道案内をする話者の動画刺激を用い,不織布マスク着用が親しみやすさ,温かさなどの社会的印象に及ぼす効果を検証した。また,透明なマスクの使用で,その社会的印象の変調効果が低減されるかどうかも検討した。実験の結果,予想に反し,話者が不織布マスクを着用した場合とマスクなしの場合で,社会的印象の評価に有意差は認められなかった。ただし興味深いことに,不織布マスクに比べ透明マスクを着用した場合には,話者の親しみやすさや温かさが高く評価された。この向上は,透明マスクを着用すること自体の直接効果,スピーチの流暢さ向上による間接効果によってもたらされていた。
口頭(社会的認知・感情)
  • 牧 恒平, 関根 和生
    セッションID: O_B01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は,自然会話場面における自己接触行動のタイプと頻度を検討した。自己接触行動とは,髪を触る,腕をさするなどの自分の手で自分の身体の一部を触る行動であり,会話の際に頻繁に生じることがわかっている。また,これまで自己接触行動は,ストレスを低下させる効果があることが示されてきた。だが,そもそも会話場面でどの部位をどの程度触るかに関してはよくわかっていない。過去の観察研究(菅原, 1987)では,会話参与者数や観察場面が統制されておらず,必ずしも会話場面での自己接触行動に限定されていなかった。そこで本研究では会話コーパスを利用し,話者の性別や人数,距離が統制された状況での自己接触行動を観察した。友人同士のグループ合計12組の会話場面を対象に,手で触れた身体部位とその頻度等を分析した。その結果,女性は髪や口への接触が多い一方,男性は鼻や手への接触が多い,という接触部位の性差が明らかにされた。
  • 松田 憲, 川柳 集, 新谷 拓馬, 畔津 憲司, 齋藤 朗宏, 有賀 敦紀
    セッションID: O_B02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    選択肢の過多はかえって選択行為を阻害するという現象は,選択のオーバーロード現象として広く知られている。本研究では選択時に流れる背景音に注目し,そのテンポが選択のオーバーロード現象の生起に及ぼす影響について検討した。111名の参加者には,課題説明の後に4枚ないし12枚の画像とともに背景音としてメトロノームのカウント音(130bpm,90bpm,50bpm)を呈示し,欲しい画像の1~3位までの順位付けとその順位付けに対する満足度と後悔度の6段階評定を求めた。また,背景音としてメトロノームのカウント音を,課題説明時には90bpmのテンポで,選択画像呈示時には130bpmか90bpm,50bpmのいずれかのテンポで呈示した。実験の結果,背景音のテンポが速い場合(130bpm)には満足度の低下と後悔度の上昇が見られた。背景音の速いテンポによって生じた焦燥感が選択のオーバーロード現象を生起させたと考える。
  • -2年間3時点のパネル調査-
    楠見 孝, 嘉志摩 佳久
    セッションID: O_B03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    新型コロナウイルスに対するリスク認知と集合的感情の時間的変化を明らかにするために,全国の18-89歳(M=44.7)の男女に対してweb によるパネル調査を,新型コロナウイルス流行の第3波期 2020年12 月-2021年1月(N=1007),第6波期2022年4月(N=618),第8波後の2023年2月 (N=820)の3回実施した。個人的/集合的感情についての質問項目は,自分/社会一般が,12 のコロナ関連対象(例:患者)に対して 9 つの感情(例:不安)をもつか否かの回答を求めた。他に,感染リスク認知等について回答を求めた。1回目と3回目の比較を行った結果,個人/集合的感情については,コロナに対する不安(49%/49 %→36%/36%)の回答比率は双方とも高く,2023年には有意に低下した。医療従事者への感謝(84%/80%→60%/57%)は個人が若干高く,2023年には有意に低下した。一方,個人よりも集合的感情の方が高いのは,感染者への不安(35%/43%→29%/32%),マスクをしない人(36%/54%→18%/22%)や首相(29%/40%→22%/23%)への怒りである。いずれも2023年には大きく低下し,個人-集合的感情の差も縮小した。
  • −潜在変化モデルを用いた検討−
    澤田 和輝, 野村 理朗
    セッションID: O_B04
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    大自然の絶景等の広大かつ既存のスキーマを超越する刺激に対して生じる「畏敬の念」と呼ばれる感情反応がある.畏敬の念−好奇心−創造性の関連において,これまでの研究は各心理特性の個人間変化に着目するあまり個人内変化については未検討であった.本研究では,20代を対象に2時点4ヶ月間隔で畏敬の念,好奇心,創造的自己を測定し,潜在変化モデルを用いることで各変数の個人内の変化量の関連を検討した(N = 257; 平均年齢26.10±3.17歳,女性183名).潜在変化モデルにより推定された各変数の変化量に対して,ブートストラップ法を用いて媒介分析を実施した結果,畏敬の念を感じる頻度が増加した個人ほど知的好奇心が増加し,転じて自己を創造的に感じる程度が増加することが明らかになった(間接効果b = 0.18, 95%CI [0.09, 0.29]).本研究の結果は,個人内変化の観点から畏敬の念が知的好奇心の向上を介して創造性を促進することを新たに示唆する.
口頭(注意・知覚・感性)
  • 石松 一真, 増田 奈央子, 篠原 一光, 木村 貴彦, 河野 直子
    セッションID: O_C01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    運転適性検査には、認知機能をはじめとした運転に関わる諸機能とその個人差を測定できることが求められる。我々は、実行機能に注目し、その加齢変化や個人差を測定可能な評価課題(go/no-go課題)を開発し、運転適性検査としての利用可能性を報告した(石松他, 2020)。本研究では、開発したgo/no-go課題がどのような実行機能(切替、更新、抑制)を反映しているかを明らかにすることを目的に、Adrian et al. (2019)で使用された認知課題やCRSD Attention Network Testとの関連を検討した。若年群42名および中年群42名がgo/no-go課題と5つの認知課題を実施した。go/no-go課題の各指標を目的変数とした重回帰分析から、Commission errorは抑制と切替、Omission errorは抑制、切替、更新、Response times は抑制と関連することが示された。これらの結果から、go/no-go課題は切替、更新、抑制という実行機能の3つの要素を含む評価課題となっていることが明らかとなった。
  • 宇野 究人, 中島 亮一
    セッションID: O_C02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    これまでの研究では,「球形を握ると球形の画像を見つけるのが早くなる」のように,多感覚間の物体表象の一致性が目標指向的な注意制御に影響することが示されていた。しかし,多感覚間の物体表象一致性が非自発的な注意シフトを引き起こすかは明らかではない。そこで本研究では,手で握った物体と同形状の視覚刺激へ空間的注意が不随意に向けられるか検討した。実験では,参加者は特定の形状の物体を左手で握りながら,画面上の注視点の上下いずれかに呈示される矢印の向きを素早く識別し右手で回答した。矢印が呈示されうる2箇所には,課題とは関連しない異なる物体画像がそれぞれ先行呈示された。一連の実験の結果,握った物体と同形状の画像が呈示された位置に矢印が出現した場合,逆位置に呈示された場合よりも矢印の向きの判断が早いことが示された。これは,多感覚間の一致性が空間的注意の非自発的シフトを励起する可能性を示している。
  • 井野 敬太, 保田 晃人, 福井 隆雄
    セッションID: O_C03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    「大」「小」といった物体の大きさを喚起する意味情報が持ち上げ動作を含めた到達把持動作の運動学的特性や把持力に及ぼす影響を検討した.把持対象物体(直方体,長さ4 cmと6 cmの2種類)には力覚センサーを導入し,各物体に「大」あるいは「小」の文字ラベルを貼付し意味情報条件として2条件を設定した.参加者は動作開始前に把持物体に貼付した文字ラベルを認識し,親指と人差指で物体を把持後,持ち上げ動作を行った.親指・人差指間距離最大値と最大把持力について分析を行った結果,「大」の時に「小」の時よりも指間距離最大値と最大把持力は大きくなった.Gentilucci et al. (2000)やGlover and Dixon (2002)により意味情報が運動学的特性に影響することは明らかになっていたが,把持力計測を新たに導入し,持ち上げ動作時の把持力調節においても意味情報が影響することが示された.
  • 牧野 晴太, 澤田 桂舟, 片山 正純
    セッションID: O_C04
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    身体意識(運動主体感と身体所有感)は運動イメージによっても促進される可能性がある.この観点から,本研究では,運動イメージした身体運動と一致した映像を提示する一致条件と一致していない映像を提示する不一致条件とを比較した結果,不一致条件と比較して一致条件における身体意識が有意に高くなった(p <0.05).さらに,運動イメージによって身体意識が促進されたとき,手の身体モデル(脳内の身体表現)が変容するかどうかを調査した.変形した手を仮想空間に表示して訓練課題を繰り返し実行した後に,最大指先幅と最大把持サイズによって手の身体モデルの変容度合いを調べた結果,手の変形前と比較して有意に変化した(p <0.05).これらの結果は,自身の身体を動かしていない状態において,運動イメージと一致した映像を観察することによって映像内の身体に対する身体意識が促進され,さらに脳内の身体モデルが変容することを示唆している.
  • 五十嵐 匠, 片山 正純
    セッションID: O_C05
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    ゴム手などに対する身体意識(運動主体感と身体所有感)に関して様々な条件で調べられているが,高次レベルの運動意図や運動意図の達成度合いとの関係については十分議論されていない.そこで,実験1では,物体把持の運動意図が身体意識に影響するかどうかを調べるために,仮想空間内の仮想物体(立方体)を把持して移動させる操作課題と仮想物体を表示しない状態で操作課題と同様の動作を行うパントマイム課題を用いて比較検討した.この結果,操作課題実行後の両感覚が有意に高くなった(p <0.05).実験2では,運動意図の達成度との関係を調べるために,成功した結果を高確率で提示する成功条件と失敗した結果を高確率で提示する失敗条件を比較検討した結果,成功条件での課題実行後の両感覚が有意に高くなった(p <0.05).従って,身体意識の成立過程において物体把持の運動意図が関与し,さらに運動意図が達成できたかどうかも影響することを示している.
口頭(記憶)
  • 三浦 大志, 島根 大輔, 伊東 裕司
    セッションID: O_D01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    ある人物を見かけて知人だと思ったが、それが別人であることが明らかになったという経験をすることがある。このような「人違い」現象がどのような原因でどの程度生起するのかに関する実験的検討はあまり行われていない。そこで本実験では、Xと待合せをしている際に、Xと服装が類似しているA、または顔が類似しているBが現れた場合、どの程度人違いが生起するのかを検討した。その結果、服装類似群・顔類似群でともに50%を超える参加者が少なくとも一瞬は人違いをしたと報告した。「Xに自分から声をかけた」という明確な行動指標を基準とした場合でも、25%程度の参加者が人違いをしていた。これらのことから、待合せ事態では一定程度人違いが生起することが実験的に示された。また、知人がその場にいるかもしれないという予期のある事態では、人違いの原因として服装が顔と同程度の大きな寄与を果たすことが示唆された。
  • 島根 大輔, 三浦 大志, 伊東 裕司
    セッションID: O_D02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    人違いとは,遭遇したある人物(A)を別の知人(X)だと誤って同定してしまうことである。人違いについての先行調査研究では,AとXの顔の類似性だけでなく,服装の類似性もその生起に寄与することが示唆されている(伊東・三浦・島根, 投稿中)。そこで本研究では,顔と服装の類似性が実際の人違いの生起にどのように影響するかを実験的に検討することを目的とした。具体的には,Xと服装が類似しているA’,および顔が類似しているA”の二人が,Xであると誤同定された際の確信度をフィールド実験によって比較した。その結果,参加者が最初にA’もしくはA”を見た時の確信度は同程度であったが,A’は時間経過とともに確信度が低下するのに対しA”は上昇することが明らかとなった。この結果は,顔と服装の類似性が人違いの生起に別々に寄与する可能性を示し,我々の人物同定の処理過程の時間的ダイナミクスを示唆している。
  • 上田 祥行, 今津 慎大郎, 篠原 幹博, 黒星 きらら, 溝脇 風子
    セッションID: O_D03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    顔記憶はしばしば再認課題で検討されてきた。この方法は記憶の有無を調べられるが、その記憶の表象を検討することが困難である。この問題に対し、近年、逆相関法を用いて顔の記憶表象が検討されている。本研究では、逆相関法を利用し、恋愛パートナーがいる女性はそうでない女性に比べて男性の魅力感受性が低いという効果の記憶への影響を検討した。実験では、参加者は魅力的または非魅力的な顔を記憶し、遅延の後で、ノイズが付与された2つの顔のどちらが記憶した顔かを判断した。この判断と付与ノイズから参加者の顔記憶表象を再現し、別の参加者がその魅力を評定した。その結果、恋愛パートナーがいる女性は、異性の顔だけでなく同性の顔の魅力感受性も低下していた。また、男性では女性とは逆に、パートナーがいると他者の魅力感受性が高かった。これらは、逆相関法を用いることで顔の記憶バイアスの個人差要因を実証的に検討できることを示している。
  • 石黒 翔, パターソン レベッカ, 齊藤 智
    セッションID: O_D04
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    ワーキングメモリは情報を一時的に保持しておくための心的機能であり、様々な活動を支える。我々が実施したパイロット実験(N = 329)では、ワーキングメモリ(i.e., リスニングスパン成績)と社会的活動(i.e., 社会的ネットワークサイズ: 過去1ヶ月間に会った人物の数)の関連が示された。具体的には、(a)社会的ネットワークサイズとリスニングスパン成績が正の相関を持つことと(b)社会的ネットワークサイズの内、対面で会った人物の数とリスニングスパン成績は正の相関を持ち、非対面で会った人物の数とリスニングスパン成績は相関を持たないというパターンが示された。これらの結果を追試するため、本研究は事前登録を行い、パイロット実験を直接追試する実験を実施した(preregistered direct replication study, N = 338)。追試実験の結果はパイロット実験の結果をおおむね再現した。ワーキングメモリと社会的活動の関連という観点から、実験結果は議論される。
  • Yuhui ZHOU, Yuki IMAKAWA, Yousuke KAWACHI
    セッションID: O_D05
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    Even though color sensitivity of the peripheral visual field is relatively poor, we subjectively experience the world in rich color. One possibility is that our daily experience of an environment makes our visual system capable of complementing the colors in our peripheral vision that we do not see. (Balas & Sinha, 2007; Cohen et al., 2020). To extend this possibility to memory functions as well, we hypothesized that the chromatic region in scene images may expand to region not physically presented in a memory recall task. Participants were asked to memorize scene chimeras with different sizes of chromatic central and achromatic peripheral regions. After 5 minutes break, they were asked to recall the chromatic central region using the method of adjustment. Results showed that participants recalled the spatially expanded color region, the degrees of color expansion depend on the size of the central chromatic region.
口頭(思考・言語)
  • 齋藤 岳人, 井上 和哉
    セッションID: O_E01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    書体の顕著性(目立ちやすさ)は,ヒトの記憶において重要な要因である。例えば,重要な情報を顕著性の高い書体で表し,注意を促すことで,記憶を促進する方法が利用されてきた。しかし,顕著性がその書体自体の特徴で判断されるか,組み合わせた書体との関係で判断されるかは十分に検討されていない。顕著性が組み合わせた書体で異なるならば,単一の書体の操作だけでは記憶への効果は限定的である可能性も否定できない。そこで,本研究では書体の顕著性がどのように判断されるかを検討した。電子広告用の書体で表した複数の単語の中で一つを異なる書体で表し,どの程度目立つかを評定させた。電子広告用の書体3種類と異なる書体24種類を組み合わせて提示し,それぞれの参加者間平均を算出した。組み合わせた書体間で顕著性の相関係数を算出したところ,.90以上の正の相関が認められた。この結果は,書体自体の特徴から顕著性が判断されることを示唆する。
  • 江原 遥
    セッションID: O_E02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    可読性(リーダビリティ,読みやすさ)を数値として自動評価する事は、読解という日常的な認知行動を理解するための重要課題であり、教育等への応用も幅広い。英文テキストの可読性指標としては、Flesch-Kincaid Grade Level (FKGL)等の指標が有名であり、英語圏では社会の様々な場面で利用されるなど社会実装も行われている。一方、こうした手法は母語話者にとっての難しさであるため、こうした古典的な可読性指標をヒューリスティクスと批判し、非母語話者用の可読性指標を最新の大規模言語モデル等を用いて理論的妥当性の高い形で構築する研究が、人工知能分野・自然言語処理分野で行われている。こうした流れに対し、本研究ではFKGL等の古典的可読性指標も、言語モデルから計算されるパープレキシティという複雑性の線形和として表現できる事を示す。これにより、他の言語モデルとのFKGLの比較や、FKGLの英語以外の言語への応用が理論的に可能になる。
  • Hiroshi YAMA, Kyung Soo DOI, Niall GALBRAITH, Norhayati ZAKARIA, Véron ...
    セッションID: O_E03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、西洋人の低コンテクスト文化と東洋人の高コンテクスト文化の違いを、2 つの測度、すなわち三段論法と比較した省略三段論法の受容度と、省略三段論法の中の大前提の熟知度への感受性を使用して検証する。この研究では、日本人、韓国人、台湾人、フランス人、イギリス人の参加者が三段論法よりも省略三段論法を好むかどうか、また熟知度に敏感かどうかを調査した。参加者には、三段論法 (Modus Tollens タイプ) と省略三段論法が与えられ、より説得力、論理的、自然、詩的、賢明さについて、7件法で評価するよう求められた。結果は、東洋人が西洋人よりも三段論法よりも省略三段論法を好むというものではなかった。ただし、熟知度に対する感度は、日本人、韓国人、フランス人の方が高かった。 日本語、韓国語、フランス語は、高文脈言語に分類され、この感受性が、言語特性の影響を受けたと考えられる。
  • 白砂 大, 香川 璃奈, 本田 秀仁
    セッションID: O_E04
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    人が状況に応じて判断方略を使い分けることで正確な判断を導いているとする枠組みは、適応的道具箱と呼ばれる。本研究では、二者択一の判断課題におけるヒューリスティック使用者と知識使用者との間で、どのような判断プロセスの違いが見られるかを、マウストラッキングの手法を駆使して検討した。まず、行動データに基づき、各参加者が用いたと考えられる方略をモデルベースで推定した結果、難易度の高い問題でヒューリスティックの使用が多く見られた。続いて、選択行動中のカーソル軌跡を分析した結果、ヒューリスティック使用者・知識使用者とも課題冒頭からマウスを走らせていたものの、ヒューリスティック使用者は選択直前に回答を修正する傾向があった。本研究の知見は、人が判断方略をどのようなプロセスのもとで用いているのかという新たな観点から、適応的道具箱の枠組みを拡張する布石となるだろう。
  • 環境の確率的性質に関する推論プロセス
    本田 秀仁, 白砂 大, 川口 潤, 松香 敏彦, 植田 一博
    セッションID: O_E05
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    記憶には忘却など、様々な負の側面が存在する。しかしながら、実世界の環境の性質や人間の認知的制約を考慮すると、負の側面を適応的なプロセスとして理解できる可能性が指摘されている。本研究では、記憶の負の側面の一つである誤りに注目し、それが生み出されるプロセスについて分析を進めた。具体的には、実世界の対象に対して持つ誤った記憶(例:横浜市に高等裁判所が存在すると判断する)のパターンと環境の確率的性質(例:どのような都市に高等裁判所が存在する確率が高いか)の関係を分析した。結果として、誤った記憶が生じるパターンは一定ではなかった。また、誤りのパターンは実世界の確率的性質と高い相関が存在していた。以上から、実世界で生じている記憶の誤りは不確実性が高い状況における人間の適応的確率推論から生じている可能性が示された。
ポスター(感情・動機・記憶)
  • 齊藤 初音, 入戸野 宏
    セッションID: P_A01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    セルフタッチは自己への注意を高める。また,自己に注目することには,現状と目標との比較を促し,望ましい状態へ近づける効果があるとされる。本研究では,セルフタッチをすることが,後続の作業で教示に従う程度に影響するかをオンライン実験で検討した。課題として,画面に提示される2つの数字が偶数同士・奇数同士であるか,偶数と奇数の組み合わせであるかをキー押しで答えるパリティ課題を用いた。 240名の参加者を無作為で4群に分け,セルフタッチの操作(あり[自分の身体に触れる]/なし[パソコンに触れる])を20秒間行わせた後,与えられた目標(より速く/より正確に)の下で96試行の課題を実施するように求めた。平均反応時間とエラー数に対し,セルフタッチの有無と目標が与える効果を検討した。その結果,反応時間は速さ重視条件でより短く,エラー数は正確さ重視条件でより少なかったが,これらの傾向にセルフタッチによる差はなかった。
  • 濱口 玲華, 北神 慎司
    セッションID: P_A02
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    近年、フェイクニュースが話題に昇るようになってから、SNS上の誤情報の拡散のメカニズムを調べる研究がなされるようになった。
    フェイクニュースは、SNSというマスメディアとは違った環境において、爆発的に広まった。環境以外にも、フェイクニュースの拡散には感情が関係していると考えられている。他者との情報共有には、情報を共有する側・される側の感情や情動が関わっているという研究は、古くから多くなされてきた。
    これらを踏まえ、SNS上での感情の共有や、感情を喚起する誤情報の拡散についての研究が盛んに行われている。
    これらの先行研究を受けて、本研究は、感情を喚起する誤情報の拡散がSNSとマスメディアでどう異なるのかを検討することを目的とした。
  • 阿部 小彩, 反田 智之, 河原 純一郎
    セッションID: P_A03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
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    近年,普及が著しいオンライン講義や動画配信サービスでは再生速度が視聴者側で可変である。講義動画の視聴では,1.6倍速視聴と1倍速視聴の場合で内容理解に差がないことが知られている(Wilson et al., 2018)。しかし,情動喚起動画を視聴する場合,視聴体験として気分変化が重要だが,再生速度がこれに及ぼす影響は検討されていない。そこで本研究は,情動喚起動画において再生速度が気分変化に及ぼす影響を検討した。参加者は怒り,悲しさ,楽しさを喚起する個別の動画のいずれかを,1.0倍速あるいは1.6倍速で数分間視聴し,視聴の前後で覚醒度と感情価を報告した。情動種類毎に,覚醒度と感情価について2(速度: 被験者間)x2(視聴前後: 被験者内)の2要因混合ANOVAを行ったが覚醒度及び感情価の両方で再生速度の主効果は見られなかった。このことは,喚起される情動という点において1.6倍に増速した動画は等速視聴と同等の視聴体験が得られることを示唆する。
  • 小林 穂波, 紀ノ定 保礼, 伊藤 友一
    セッションID: P_A03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
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    エフォートによる損失割引の枠組みを利用して交通渋滞の場面における意思決定について調べた。事前登録をした上で2つの調査を行い、渋滞で待つ時間によって到着時間の遅れが主観的に割り引かれる程度がどのように変化するかをベイズ階層モデリングで調べた。調査1は大学生を対象に、調査2は運転免許を持つ人を対象に実施した。調査では、目的地への到着時間が遅れるとしても渋滞を回避するか、目的地への到着時間はそのままで渋滞に巻き込まれるかを選択する課題を利用した。その結果、どちらの調査でも、渋滞で待つ時間が増加しても到着時間の主観的な割引率の減少速度が一定であるという双曲割引モデルが支持された。この結果はエフォートによる損失割引の他の研究結果と一致する。渋滞で待つことの心的エフォートにより、到着時間の遅れという損失が割り引かれて、目的地への到着時間が遅れるとしても渋滞を回避する意思決定をする可能性を示唆した。
  • 北條 珠緒, 小川 緑, PERUSQUÍA-HERNÁNDEZ Monica, 綾部 早穂
    セッションID: P_A05
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
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    日常生活の中でかわいいと表現される対象は多岐にわたるが,かわいさが喚起する感情については十分には検討されていない。本研究では様々なかわいい対象(ベビースキーマ有:BS,ベビースキーマ無:NBS,自己選択:SC)に対して喚起される感情について主観的評価(16項目)と4か所の表情筋の活動を計測して中立刺激と比較検討した。また評価者の多次元共感性の特性と感情喚起との関連も併せて調べた。主観的評価については,「かわいい」は全対象が, 「愛おしい」「高揚感」はSCとBSが中立刺激よりも有意に高く評価された。また, 皺眉筋がSCとBSで,眼輪筋と頬筋の活動がSCで増加した 。個人特性については,被影響性と「かわいい」,感情移入のしやすさと「胸がきゅうとなる感覚」 との関連がみられた。以上の結果からかわいさから喚起される感情は,対象の持つかわいさの種類や個人特性からの影響を受け,異なる表情表出をもたらす可能性が示された。
  • 市村 賢士郎, 平井 志歩, 水野 廉也
    セッションID: P_A06
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
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    課題の取り組みに対するBGMの効果に関して先行研究の結果は一貫していない。市村・平井・水野 (2022) では,課題中に聴くBGMを自己選択することで,音楽的要素に関わらず,内発的動機づけが高まることが示唆された。本研究では,BGMの選択肢となる音楽の感情価 (Happy条件・Sad条件) を操作し,いずれの条件でも同様に自己選択の効果がみられるかを検討した。大学生148名にオンライン実験を行った。参加者はHappy条件またはSad条件に割り当てられた。また,課題中のBGMを自己選択する条件,ランダムに選択される条件,BGMなしの条件の3条件で持続的注意課題を行った。実験の結果,内発的動機づけにおいて自己選択の主効果がみられ,自己選択条件,ランダム条件,BGMなし条件の順で高かった。一方,感情価の主効果および交互作用は見られなかった。内発的動機づけに対してはBGMの感情価よりも,BGMを自己選択するかどうかの影響が大きいと考えられる。
  • 原田 佑規, 大山 潤爾, 和田 真
    セッションID: P_A07
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
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    本研究は表情認知における目もとと口もとの動きの効果を検証するために実施された。実験では,第1表情の静止画が1秒,モーフィング動画が1秒,そして第2表情の静止画が1秒,それぞれシームレスに呈示された。表情刺激は,全体,目もと周辺のみ,口もと周辺のみのいずれかで呈示された。さらに,表情変化の順序として,中性表情から感情表情に変化する条件と感情表情から中性表情に変化する条件の2つがあった。感情表情には怒りと喜びが用いられた。その結果,怒りに変化する表情の情動価は,全体条件と目もと条件のほうが口もと条件よりも有意に高かった。一方で,喜びに変化する表情の情動価は,全体条件のほうが目もと条件と口もと条件より有意に高かった。これらの結果から,怒りの認知は目もと周辺の動きに,喜びの認知は目もとと口もとの動きの統合に,それぞれ影響を受けることが示唆される。
  • 山口 剛, 中村 文隆
    セッションID: P_A08
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
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    メタ記憶において,記銘後に求められる「後で思い出せるか」といった学習判断による予測は,おおむね正確であることが示されている。一方で,メタ記憶的な判断によって記憶成績が向上する逆行性の影響も示されている。本研究は,学習判断の範囲を制限し,制限範囲に伴って記憶成績も変化するか検討した。参加者はアメリカ在住の486名(19歳から71歳)であり,日本語(ローマ字)と英単語の計45ペアの学習が求められた。各ペアの記銘機会後に学習判断を求めたが,15ペアずつ0-30,30-70,70-100の範囲で学習判断が求められた。参加者のうち75%がこの範囲制限を受け,範囲制限の理由付けとして,人工知能,記憶の専門家,統計的無作為と提示された。分析の結果,範囲制限による記憶成績の差はみられなかったが,0-30と30-70の制限ペアでは学習判断が高いほど再生できていたが,70-100では,学習判断が低いほど再生できるといった異なる傾向が示された。
  • 奥村 晴, 伊藤 友一
    セッションID: P_A09
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    意図優位性効果とは,意図遂行前は意図に関連する概念の活性化が促進され,意図遂行後はそれが抑制される現象である。奥村・伊藤(2022,日本認知心理学会第20回大会)は,内海・齊藤・牧岡(2012)の手続きを参考にしたが,意図優位性効果は再現されなかった。意図の活性化の程度は語彙判断課題の反応時間によって測定されていたが,実在する単語と非常に類似度の高い非単語があり,比較的課題難易度が高くなっていた。それが意図優位性効果の検出を困難にしている可能性があったため,本実験では単語・非単語の弁別が容易になるよう刺激を調整した。しかしながら,意図優位性効果は認められなかった。よって意図優位性効果が再現されなかった原因は語彙判断課題の難易度が高いことではなかったと考えられる。今後は,語彙判断課題の反応時間ではなく,再認課題や再生課題の正答率,反応時間などを指標とした検討を行う必要がある。
  • ――Yin et al.(2021)の追試――
    小林 正法, 紀ノ定 保礼, 川島 朋也
    セッションID: P_A10
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
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    高い価値が与えられた学習項目が覚えやすいことは,価値誘導記憶(value-directed remembering)として知られている。価値が学習項目の特徴が統合された記憶を促進するのかどうかは十分に検討されていなかった。Yin et al. (2021)はこの点を検討した。実験では,高価値または低価値を付与した色付きの刺激(単語や画像)が呈示され,学習時に刺激のみを覚えるよう教示される群と学習時に刺激と色の両方を覚えるよう教示される群(統合を促す群)の間の記憶成績が比較された。実験の結果,学習時に統合が促進された場合のみ,特徴(色)が価値によって促進されることが明らかになった。本研究はYin et al. (2021)の実験3a/bの事前登録型追試として,2つの実験を実施した。実験の結果,統合の促進によらず,価値が刺激自体の記憶を促進することは再現された。一方で,刺激の特徴(色)については十分に再現できなかった。
  • 蘇 心寧, 緑川 晶
    セッションID: P_A11
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    ある項目を繰り返し検索すると,その項目が強化され,関連する他の項目が想起されにくくなる現象は検索誘導性忘却(RIF)と呼ばれる。従来の検索練習パラダイム(RPP)と新しい生成的検索練習パラダイム(GRPP)の両方でRIFが生じるが,ネガティブな出来事の忘却に対して,RPPよりもGRPPの忘却効果が大きい,すなわちGRPPの優位性が示された。RPPとGRPPの主な相違点は,検索練習前に認知資源をどの程度消費するか,検索練習段階で作動記憶の容量の個人差にどの程度依存するかという2点である。そこで,本研究では,ネガティブな出来事の忘却におけるGRPPの優位性は,検索練習前の認知資源の消費程度に影響されるか,あるいは,検索練習段階で作動記憶の関与度に影響されるかを検討することを目的とする。なお,実験は5月以降に行う予定になるので,結果はまだわかっていない。今回の学会で研究計画や進捗状況をご発表させていただければ幸いです。
  • 西山 慧, 谷坂 知美, 山本 弦季, 岡野 裕仁, 立川 真衣, 村上 遥, 阿部 由香梨, Rebecca PATERSON, 齊藤 智
    セッションID: P_A12
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    再生テストは記憶成績を評価する主要な方法の一つであると同時に,再生自体も心理プロセスのひとつである。しかし,その検討は不十分であり,記憶現象が再生プロセスから議論されることはほとんどない。再生テストにおける再生率の過度の使用がその原因の一つであると考えた。本研究では,手がかり再生を対象として,その反応潜時を単語音読と比較することによって,背後にある再生メカニズムを検討した。手がかり再生・単語音読のどちらにおいても標的語を繰り返し反応させ,反復による潜時の変化を比較した。その結果,単語音読の方が全般的に潜時が短く,手がかり再生では反復を通して潜時が短くなったが20回反復した時点でも単語音読よりも速い反応はほとんど見られなかった。反応潜時の差は,単語音読における文字-音声のように事前学習された連合と比べて新奇な連合では海馬の寄与が大きいことを反映したものかもしれない。
  • 関本 朱里, 池田 和浩
    セッションID: P_A13
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,自伝的記憶の想起がその後の意思決定に影響を及ぼすのかを検証するため,金銭に関与する自伝的記憶の想起と意思決定課題を使用した。また,自伝的記憶の機能的差異に加えて,利得損失状況,金額の幅,確率の曖昧さについても検証した。70人の参加者のうち,三分の一の参加者はお金に関する自己や方向づけ機能に関わる記憶,三分の一の参加者は社会機能に関わる記憶,その他の参加者は統制条件として大学に来るまでの出来事を想起するよう求められた。質問紙に回答後,先ほど想起した記憶を選択前のプライムとした課題を行った。5名の参加者を除外し分析を行った結果,記憶想起と選択の直接的な関係は確認されず,利得損失状況や金額の幅の影響が確認された。また,自己構築を目的として使用される記憶の質と,対人関係を目的として使用される記憶の質は異なることが示唆された。
  • 長井 美友貴, 伊藤 友一, 松本 昇, 川口 潤
    セッションID: P_A14
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    友人と旅行計画を立てるときなど,他者と共に未来の事象を想像することがある。個人が将来経験し得る事象について具体的に想像する認知機能であるエピソード的未来思考(以下,未来思考)の研究は,これまで多数行われてきたが,共同での未来思考を扱った研究はなく,そこにどのような現象的特徴があるのかは明らかではない。そこで本研究では,未来思考を共同で行うか否か (単独/共同) と,想像する出来事の時間的距離 (1週間後/1年後) を操作し,自伝的インタビューという手法に基づく未来思考課題を行った。そして,思考内容の詳細さなどの主観評定を求めた。その結果,単独条件では1週間後条件より1年後条件で主観的な詳細さが低下したが,共同条件では1年後条件でも主観的詳細さの低下は認められなかった。このことから,共同で未来思考を行うと時間的距離が遠い出来事であってもその具体性が保たれ,鮮明なイメージが構築され得ることが示唆された。
  • 池田 和浩, 関本 朱理, 佐藤 拓, 川﨑 弥生, 西浦 和樹
    セッションID: P_A15
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,うつ傾向と語り直し特性がエピソード思考の時間的距離および公私帰属特性に与える影響を検証した。43名の参加者は一つの手がかり語から特定のエピソード記憶イメージを30秒思考するように求められた。参加者は,距離(遠隔・近接)×時間(過去・未来)×対象(自己・社会)の8パターンの条件いずれかを2回ずつ思考した。一連の課題はPsychoPyを用いて提示され,手がかり語はランダムに選択された。各エピソードをイメージしたのちに,参加者は,当該エピソード記憶の鮮明さ,現実性,自己性,重要性と感情価を5件法で評価した。課題終了後,参加者はQIDS,Re-tailの認知転換尺度,楽観性尺度に回答した。実験の結果,うつ傾向が強い参加者(中等以上)はそれ以外の参加者に比べて,未来の記憶イメージに自己性や重要性を高く認識した。また認知転換傾向の低い参加者は,時間的に近接した記憶イメージに対して自己性や重要性を低く認識した。
  • 丹藤 克也, 柴田 朝夢
    セッションID: P_A16
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    目撃者による犯人識別手続きとして,1人の人物のみが呈示される単独面通し手続きは,複数の人物が呈示されるラインナップ手続きと比べ誘導的であり,誤同定の危険性が高いことが指摘されてきた。しかし,ラインナップと比べ,単独面通しの方が誘導性が高いのかについて,十分な実証研究が蓄積されているとは言い難い。そこで,本研究では,単独面通しと継時ラインナップ手続きにおける誘導情報の影響について検討した。目撃映像の呈示後,ターゲットが含まれない単独面通し,もしくは継時ランナップを実施した。誘導条件では,人物識別の前に,他の参加者の9割が写真帳の人物を犯人であると判断したとの誘導的な情報を与えた。統制条件では,そのような情報は与えなかった。実験の結果,統制条件では,継時ラインナップの誤同定が単独面通しの13.5倍であった。これに対して,誘導条件では識別手続きによる違いは認められなかった。
  • 永田 奈津季, 伊東 裕司
    セッションID: P_A17
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    自己複雑性(self-complexity:以下SC)とは,Linville(1987)によって提唱された自己概念の構造の個人差を説明するためにモデルであり,側面の数が多く,分化(独立)していることを自己複雑性が高い状態と定義し,自己複雑性の高さは,抑うつに緩衝機能を持つとした。その後,佐藤(1999)はこの緩衝効果は自己複雑性が高いだけでは不十分で,感情価によって分けた肯定的自己複雑性(以下P-SC)と否定的自己複雑性(以下N-SC)のバランス,つまりP-SC >N-SCの時に生じるのではないかと示唆した。本論では,この仮説の下P-SC >N-SC時に「抑うつの緩衝効果」,P-SC <N-SC時に「抑うつの促進効果」が生じていることを明らかにした。 また,抑うつと関連する自己複雑性のバランスの指標「P-SC-N-SC」の再検査信頼性に関し比較的高い安定性を確認し,有効性についても示した。
  • 辻 菜々実, 今泉 修
    セッションID: P_A18
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    Go/No-go課題では,No-go反応に比べてGo反応時に提示された視覚刺激が再認されやすくなる。ただし,非運動課題に比べてNo-go反応さえ再認を促すことから,運動実行だけでなく運動準備も再認に影響することが考えられる。しかし先行研究は運動の準備と実行の影響を分けて検討していない。そこで本研究は修正Go/No-go課題を用いてこの点を検討した。学習課題では,第一手がかり,ピクトグラム画像,第二手がかりが順に提示された。実験参加者は第一手がかりでGo反応を準備するかどうかを教示され,第二手がかりでGo反応を実行するかどうかを教示された。続いて画像の再認課題を行った。Go反応が準備された条件とGo反応が実行された条件のそれぞれで再認成績が向上するという仮説を立てたが,ベイジアン分散分析によって,この仮説を棄却する証拠が認められた。少なくとも本実験手続きにおいては,運動準備と実行のいずれも再認記憶に影響しないことが示唆された。
  • 佐藤 可南子, 森島 泰則
    セッションID: P_A19
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    私達は様々な情報を記憶しているが, 視覚性ワーキングメモリにおいて記憶できる情報量は3, 4個である(Luck and Vogel, 1997)。記憶できる量には限りがあるものの, 増やす方法として情報を圧縮するチャンキングがある(Gilchrist, 2015)。チャンキングは情報に対して馴染みがある場合や知覚特性がある場合に起きるが, メカニズムは完全には明らかになっていない(Gilchrist, 2015)。本研究では, 視覚性ワーキングメモリ課題において知覚特性があるチャンキングが記憶容量に与える影響を調べることを目的とした。成人を対象に, コンピューターで幾何学図形を使用したワーキングメモリ課題における正答率を調査した。実験の結果, チャンキングしやすい図形の方がチャンキングしにくい図形よりも正答率が有意に高くなり, チャンキングしやすい図形の方が記憶されやすいことが明らかになった。
  • 清水 寛之
    セッションID: P_A20
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    実験室場面におけるメタ認知的モニタリングの正確性を評価するために、大学生160名を対象に、自由再生課題を用いて個別記憶実験を行った。そのなかで実験参加者は単語リストの直後自由再生の直後に、最終自由再生成績を予測し、さらに一般的・平均的大学生における最終自由再生成績を予測することが求められた。その結果、全般的に、自己の最終再生成績にを実際の再生成績よりもかなり低めに予測することが明らかになった。さらに、一般的・平均的な大学生の成績を自己の成績よりもわずかに高めに予測することが示された。これらの実験結果をもとに、自己および他者の記憶能力に関する主観的評価の特徴が議論された。
  • 吉崎 一人, 加藤 公子
    セッションID: P_A21
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    自分自身(自己)の行動に他者が影響を与えることが明らかにされている(例,Sebanz et al.,2003)。この現象の根底には,他人の課題表象の形成がある。本研究では,先行研究の手続き上の欠点を修正し,課題共有が符号化に及ぼす影響を検討した。単語カテゴリー判定課題を,参加者が一人で行う個人条件と,パートナーと一緒に行う共同条件で実施した。カテゴリーは3つ用意され,自身(自己),パートナー(他者),割当なしであった。その後の偶発再生課題では,カテゴリーや社会的条件(個人/共同)に関わらず,画面上に呈示された全ての単語を想起することが求められた。その結果,共同条件においてのみ,非担当カテゴリーよりもパートナーカテゴリーの想起の優位性が観察された(他者優先性)。このことは,課題共有自体において課題の共表象が形成され,自己カテゴリーと同様に他者カテゴリーに対する符号化が行われる可能性を示唆した。
  • 井上 晴菜
    セッションID: P_A22
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    Goh(2005)は,単語再認のFA率が既学習話者のほうが,未学習話者よりも高いことを報告した。これは,その単語が未学習でも,その単語を話す話者に聞き覚えを感じたために,「学習した(単語だ)」という反応をしたと考えられる。話者同定でも同様に,音声に対する熟知度の高まりがあった場合に,ある音声とある音声の話者が「同一人物かどうか」を判断する際に,聞き覚えのみに基づいて判断することがあるのか,それとも,聞き覚えがあってもそれだけに頼らず,その他の情報(「学習エピソード」を検索できたかどうか)も含めて,総合的に判断しているのか,を明らかにする必要がある。そこで,(標的人物の音声を学習する)話者同一性評定セッションの学習段階に先行して,(a)標的人物のテスト刺激と同一の音声刺激を予め聴く群,(b)非標的人物のテスト刺激と同一の音声刺激を予め聴く群,(c)テスト刺激を聴かない群を設け,比較検討する。
  • 西山 めぐみ
    セッションID: P_A23
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    近年の研究により,視覚的長期記憶については詳細な情報が非常に長期にわたって保持されることが明らかになってきている (e.g., Brady, Alvarez, & Oliva, 2010) 。しかし,聴覚的長期記憶については十分に研究が進んでいるとは言い難く,聴覚的長期記憶は視覚的長期記憶に比べてやや劣るという可能性を示す報告もあるが (e.g., Cohen, Horowitz & Wolf, 2009),一方で,聴覚的長期記憶の頑健性を示す結果も報告されており (e.g., 上田・寺澤, 2010; 西山, 2021) ,さらなる研究が必要と考えられる。そこで本研究は,日常生活においてあまり耳にすることのない低頻度語の英単語音声を刺激として用い,聴覚的記憶の長期持続性について検討した。その結果,偶発学習事態において2回呈示されただけの音声の記憶が3週間後も保持されていることが明らかになった。今後は,聴覚的記憶に保持されている情報の精度について検討する必要があると考えられる。
  • -絶対的・相対的な正確さの指標に基づく検討-
    山根 嵩史
    セッションID: P_A24
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,学習前後で行われるメタ認知的モニタリングに関して,記憶成績の予測の正確さ(accuracy)の観点から比較が行われた。大学生49名を対象として,新規な学習事態を模した対連合学習の実験が行われた。実験は学習前,学習,再学習,テストの4セッションで構成され,学習前と学習後およびテスト時に,それぞれ対応するメタ認知的モニタリングの指標(EOL,JOL,確信度判断)が測定された。メタ認知的モニタリングの評定値と記憶成績から,正確さの相対的指標(calibration)と絶対的指標(resolution)が計算された。
    結果として,各モニタリングにおける正確さの指標は相互に強く相関しており(r = .89~.95),学習前後のモニタリング活動の共通性が示唆された。一方で,学習の進行に伴い相対的な正確さの指標が向上することが示され,学習や再学習から得られた手掛かりが成績の見積もりを正確にしていく過程が示唆された。
ポスター(思考・言語・注意)
  • Miyuki R. OSHIMA, Yasunori MORISHIMA
    セッションID: P_B01
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    先行研究では、外国語で読む道徳ジレンマは論理的な回答が好まれる現象「Foreign Language Effect(FLE)」が見られるとされています。FLEは、外国語読解で観察される心的イメージの低下によって引き起こされると推測されています。本研究では、心的イメージが外国語での道徳ジレンマの意思決定にどのような影響を及ぼすかを検討した。2つのグループに、第二言語による道徳ジレンマを事前・事後テストとして提示した。一方のグループは2つ目のジレンマの前にイメージの指導を受け、もう一方のグループは受けなかった。指導を受けたグループは、事後テストの条件下で、義務論な選択がわずかに増加することが示された。また、このグループでは、事後テストのジレンマの登場人物の鮮明さが有意に増加することを示した。この結果から、低いイメージ力やFLEの場合でも、心的イメージを促すことで、物語への没入感や義務論的判断を高めることができると考えられる。
  • ―二重課題と心的イメージ指標との関連―
    細川 亜佐子, 北神 慎司
    セッションID: P_B03
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    会議録・要旨集 フリー
    物語を読み,読者が共感するプロセスにおいて,視空間的な処理の活性化が関与する可能性が示唆されている。このような視空間的な処理によって構築される表象は,心的イメージとの関連性が指摘されているものの,実際にはその具体的な性質は明らかにされていない。そこで,本研究は,物語理解時の視空間的処理によって構築される表象が心的イメージと同様の知覚的な性質を有するのかについて検討することとした。具体的には,物語読解と視空間記憶課題を同時に行う二重課題を実施し,視空間記憶課題の負荷が物語理解時の共感的反応を阻害するかを検証した。その結果,二重課題の視空間記憶課題の課題負荷によって,物語読解課題の共感的反応得点は低下した。ただし,心的イメージ能力との関連性は示唆されなかった。今後は,心的イメージに関する客観的指標を用いるなど,心的イメージとの関連性をより多角的に検討する必要がある。
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