抄録
近年,無関係な刺激を排除して課題目標を焦点化する認知的安定性と,状況の変化によって課題を切り替える認知的柔軟性は必ずしもトレードオフの関係ではないことが示されている。本研究では,タスクスイッチパラダイムを用いて,安定性と柔軟性の関係を明らかにするため,安定性と柔軟性の文脈操作が,安定性を反映する反応一致性効果と柔軟性を反映するスイッチコストのそれぞれに及ぼす影響を検討した。もし,安定性と柔軟性が独立した関係にあるのならば,一致性頻度の文脈操作は,反応一致性効果に対してのみ,スイッチ頻度の文脈操作はスイッチコストに対してのみ変動をもたらすことが予測された。その結果,反応一致性効果は,一致性頻度操作に加え,スイッチ頻度操作によっても変動し,スイッチコストは,スイッチ頻度操作のみによって変動することが示された。この結果は,認知的安定性と認知的柔軟性は独立した関係性にある可能性を示唆している。