抄録
昨今の海難事故で遭難者の捜索に用いられた飽和潜水は、地上(1気圧)の30倍相当の水深300mでの潜水作業にも用いられる。こうした高気圧環境下であっても、刺激間の弁別が容易な場合の選択的注意課題の成績は地上と同等であるとされている。一方で、潜水作業時間は有限であることから、潜水員は作業中タイムプレッシャーに曝露されることとなる。これまでの研究では、課題遂行時のタイムプレッシャーの影響を検討していなかった。よって、本実験では高気圧曝露時のタイムプレッシャーが選択的注意能力に及ぼす影響について、数的ストループ課題によって検討した。本実験では、数的ストループ課題を水深300m飽和潜水中に1回(31気圧)と訓練前後に実施した。本研究において、タイムプレッシャーと高気圧曝露との間に有意な交互作用はなかった。以上から、高気圧曝露時の選択的注意能力は、タイムプレッシャーによって変化しないことが示唆された。