2019 年 24 巻 1 号 p. 43-50
脳損傷者における学習法として,誤りなし学習が有用であることが知られている。従来,誤りなし学習は潜在学習の理論によって説明されてきたが,近年,顕在記憶が関与することも指摘されており,そのすべては明らかになっていない。今回われわれは,潜在学習にワーキングメモリが関与するという立場に立ち,言語性ワーキングメモリの容量によって潜在学習の程度が異なるかを検討した。対象は20歳から30歳代の健常成人であった。方法は,リーティングスパンテスト(reading span test:RST)を用いて高スパン群と低スパン群に分類し,潜在的な系列の学習課題として知られるserial reaction time task(SRT課題)の成績を2 群間で比較した。結果,高スパン群と低スパン群のいずれも潜在学習を示したが,その成績は高スパン群のほうが安定していた。また,SRT課題を二重課題下で行った場合,学習効果は高スパン群においてのみ認められた。以上より,言語性ワーキングメモリの容量によって潜在学習の程度は異なり,言語性ワーキングメモリの容量が大きいことは,潜在学習にとって有益であることが示唆された。