2019 年 24 巻 1 号 p. 51-61
他人の手徴候(Alien Hand Sign:以下AH)に関する報告はいくつかあるが,左右差に着目した報告は少ない。今回我々はAHを呈した2症例(右手のAH 1例,左手のAH 1例,いずれも右利き)を経験した。2例ともに介入初期はADLにおいて上肢の不使用が認められたが,その後,症例A(右手のAH)では道具の強迫的使用など脱抑制的症状が顕在化し,右手が勝手に動かないように制御するための訓練が必要となった。また,ADLにおける右手の使用が可能となったが,自分の意志に沿ったコントロールの困難さが残存し,脱抑制的症状の増減のみならず,可能となった道具操作における動作の操作性(力加減やペース配分)を評価し,この点に介入することの必要性が示唆された。一方,症例B(左手のAH)については左手の不使用傾向が長く継続し,左手の操作が改善する一方で,左手が視野外や注意が向かない場所にある時にあるまとまりを持った不随意な運動が誘発されるようになり,左手の状況を確認しやすい場所に配置することを習慣化する必要があった。AHは症状に左右差があり,介入方針にも影響を及ぼすことが示唆されたので,その点について詳しく報告・整理するとともに,左右差をふまえた介入戦略を提案する。