多くの高齢者は記憶の問題を抱えており、その問題に対する効果的な介入方法の開発の意義は高い.本研究では、高齢者における誤りなし学習と誤りあり学習の記憶促進効果および心理的負担度の違いを検討した.著明な認知機能障害がない高齢者20人に対して、実在する8人の顔写真に対応する名前の記銘と再生を2条件にて求めた.誤りなし学習条件では記銘段階で初めから正しい名前を呈示した.誤りあり学習条件では記銘段階では名前の推測を求め、20秒間経過または2回誤ったあとで正しい名前を呈示した.各セッションの終了後、課題の心理的負担度を7件法で聴取した.結果、正しく再生された名前の数は誤りなし条件で誤りあり条件よりも有意に多く、心理的負担度得点も誤りなし条件で誤りあり条件よりも有意に低かった.誤りなし学習は誤りあり学習に比べて記憶促進効果が高く、かつ心理的負担度が低く、病的な記憶の障害のない高齢者においても誤りなし学習が推奨されると考える.