原子衝突学会誌しょうとつ
Online ISSN : 2436-1070
2022年9月15日
PSI 研究所における準安定パイ中間子ヘリウム原子のレーザー分光
堀 正樹
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2022 年 19 巻 5 号 p. 67-79

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抄録

負電荷の中間子を物質中で静止させると,原子核の周囲を回る電子と置き換わり中間子原子が生成する.レーザー分光法を用いて中間子原子の遷移周波数を測定し,量子電磁力学(QED)計算 による理論値と比較すれば,中間子の質量などの諸性質を従来よりも高い精度で決定できるはずである.また,中間子に作用し得るような標準模型を超える第五の力の上限値を求めることがで きると考えられる.特に準安定パイ中間子ヘリウム原子(π4He+4He2+ + π + e)[1–9] は,ヘ リウム原子核の周りを 1s 軌道の電子と,主量子数 n 17 及び軌道角運動量量子数 l ≈ n − 1 を有 する負パイ中間子が回る原子である.この原子は液体ヘリウム標的中でも 7 ns 程度という異常に長い寿命を持つため,レーザー分光測定の対象となり得る.我々はスイスのポール・シェラー研究所(PSI)に設置されたリングサイクロトロン加速器においてこの原子を従来に比べ大量に合成し,そのレーザー共鳴線を測定した [7].こうして量子光学の手法を用いて原子軌道を回る中間子を制御することに初めて成功した.

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