多原子分子の光化学反応では,ほとんどの場合,様々な核配置でポテンシャル曲面の交差(円錐交差)と非断熱遷移が起こるため,その反応経路や分岐比を理論研究だけで予測することは困難である.したがって反応過程の全貌を実験的に観測することは,光反応機構の解明において非常に重要である.我々は極端紫外光(21.7 eV)をプローブ光として応用した時間分解光電子分光実験(EUV-TRPES)を実施し,気相有機分子における光反応ダイナミクスの全容解明に取り組んだ.EUV-TRPESでは,電子励起された分子が円錐交差に到達して電子基底状態へ内部転換し生成物を形成する,一連の光反応過程をリアルタイムに観測することが可能である.
最近,原子時計を始めとする新しい応用用途の提案に動機づけられて,多電子重元素多価イオンの分光研究が活性化している.我々は,その複雑かつ個性豊かな標的を相手に,小型電子ビームイオントラ ップを用いた分光研究を展開してきた.新しい応用用途の要求に応えるため,或いはその原子構造をよ り深く理解するために,新しい分光法を提案・実証することで,測定誤差の改善や,それまで叶わなかった準位構造やダイナミクスの観測を実現している.本稿では,その新分光手法開発と得られた科学的成果を解説する.