高次高調波による高強度のXUVアト秒パルスの発生とそれによって誘起される原子および分子の多光子過程への応用について概説する.ルーズフォーカス法は,位相整合条件を満たしつつ相互作用体積を大きくすることによって,XUV領域での非線形光学過程を誘発するのに十分な集光強度の達成を可能にした.アト秒領域の非線形現象の観測は,XUVパルスの時間形状を直接測定するためにも非常に重要である.本稿では,ルーズフォーカス法によって観測が可能となった原子および分子におけるXUV領域の2光子過程によるアト秒パルスの自己相関計測と超高速分子ダイナミクスについて紹介する.
静磁場型エネルギー分析器は高速電子のエネルギー分析に適しており,電子顕微鏡や加速器の分野でよく用いられている.以前の記事では静磁場型エネルギー分析器の要となる磁場プリズム(セクター磁石)の設計指針を解説した.本稿では磁場プリズム単独で得られるよりも高エネルギー分解能を達成するための収差補正技術を解説する.まず,一様磁場のモデルで磁場プリズムの幾何収差を解析的に取り扱い,その原因や補正方法を説明する.そして,代表的な収差補正器である磁気多極子について,基礎理論とその使用方法を解説する.最後に,3次元数値計算を用いて,実際の磁場プリズムで生じる幾何収差と,磁気多極子によるその補正の例を示す.
火星大気中の化学過程に関連して,酸化鉄クラスター正イオンFenOm+とメタン(CH4,CD4)との気相反応を観測した.クラスター上でのC–H / C–D結合の開裂を伴うメタンの脱水素,すなわちFenOmCH2+ / FenOmCD2+およびFenOmC+の生成が観察され,その反応性はサイズ,組成依存性を示した.例えば,Fe3O+とFe4O+の反応速度係数はCH4,CD4ともに同程度で,それぞれ1 × 10−13,3 × 10−13 cm3∙s−1と算出された.これらの反応速度係数に基づいて見積もると,火星大気中に107 cm−3程度の低密度の酸化鉄クラスターが存在すれば,火星で稼働するNASAの探査車キュリオシティが観測したメタンの急速な消失を説明できることが示された.
アト秒パルスを集光することで,光の強度密度を大幅に向上させることができる.可視光はレンズやミラーによって比較的容易に理想的な集光が可能であるが,アト秒パルスの光を集光することは困難である.その理由は,アト秒パルスが波長的にEUV(Extreme Ultraviolet)領域にあり,使用する光学素子に極めて高い精度が求められるためである.本稿では,アト秒パルスの特性を最大限に活かすために重要な,色収差のないミラーによる集光技術について,その概要,設計,集光実験,および応用例を解説する.