2024 年 21 巻 3 号 p. R006-
宇宙における重元素の起源,特に金やプラチナ,ウランなど速い中性子捕獲反応を必要とする元素の起源は長年にわたる物理学・天文学の未解決問題である.近年,そのような重元素の起源として最も期待されているのが「中性子星」の合体現象である.中性子星が合体すると一部の物質が放出され,速い中性子捕獲反応により重元素が合成される.さらに,新しく合成された原子核の放射性崩壊によって加熱された物質が「キロノバ」と呼ばれる電磁波放射を起こすことが予想されてきた.キロノバは,可視光・赤外線光子が重元素の束縛–束縛遷移によって放出物質と相互作用しながら系からじわじわと抜けてくる現象であり,キロノバの性質を理解するには,完全性の高い重元素の原子データが必要不可欠である.本稿では,キロノバの性質を理解するための重元素の原子データの需要と,近年の進展について紹介する.また,中性子星合体の重力波・電磁波観測の現状を紹介し,中性子星合体の重元素合成に関して何が分かっているかをまとめ,今後の展望を述べたい.