抄録
本稿は、コンテンツツーリズム領域における事例研究の一層の積み増しを目指して、スタジオジブリのアニメーション作品「耳をすませば」1のモデル地とされる東京都多摩市聖蹟桜ヶ丘2における取り組みを取り上げ、地元における活動の推移の紹介ならびに訪問者の意識について分析する方法で活動コンセプトの検証を行った。
スタジオジブリは、地域振興に関して地元との連携にあまり積極的ではない。そのため作品にちなんだ活動だけでは限界があり、同地では作品世界から派生したテーマ(訪問者の青春を応援する)を打ち出したコンセプトを掲げて活動が行われている。これは、いわば苦肉の策から生まれたものであるが、「コンテンツの利用や二次的利用とは別に、コンテンツから派生したテーマを軸に新たな物語性が創造され、受容されるツーリズム」という方向性が明確であり、本稿ではこの概念を暫定的に「テーマ派生型コンテンツツーリズム」と表記する。
派生したテーマに基づいて「青春のポスト」が設置され、そこに投函された訪問者のメッセージを分析した結果、このコンセプトは受け入れられているものと判断される。そして、この概念はコンテンツツーリズムの発展的・持続的な展開を実現する要素の一つとして有効であるとする仮説を提示した。