コンテンツツーリズム学会論文集
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  • 安田 亘宏
    2018 年 5 巻 p. 1
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本学会の増淵会長の近著『おにぎりと日本人』(洋泉社)は、ありそうでなかった日本人のソウルフードおにぎりの歴史や文化、地域性、その未来などの蘊蓄を詰め込んだ快作である。専門書ではなく、気楽に読める新書なので是非読んでほしい。読後、すぐに誰かに話したくてたまらなくなるエピソードばかりである。  その冒頭に、10数年前に公開されさりげなくヒットした日本映画『かもめ食堂』の話がでてくる。フィンランドのヘルシンキ、日本人女性がオーナーの小さな食堂を舞台にした不思議と心温まる作品である。そこに、おにぎりが登場しストーリーの中で存在感を示す。ロケ現場となったお店は現在「かもめ食堂」の名で日本人が経営しており、決して少なくない数の日本人の映画ファンが訪れている。筆者も、ここを訪れるだけが目的ではなかったが2度ほど訪れ、作品の中で登場するもうひとつのキーとなる食、シナモンロールを食べた。遠い地の映画の舞台で、作品に登場したものを食すのはなんとも味わい深い。  筆者はコンテンツツーリズムとともに、フードツーリズムも研究対象としている。フードツーリズムとは、「その国や地域の特徴ある食や食文化を楽しむことを主な旅行動機、主な旅行目的、目的地での主な活動とする旅行、その考え方」と定義している。その国や地域の食とは、その国民や地域住民が誇りに感じている食べ物のことであり、それをわざわざ食べに訪れるのがフードツーリズムである。  わざわざ食べに訪れる食に出会うのは、様々なパターンがある。一度訪れ食して感動したので、その地は訪れていないがその食を提供するレストランなどで食して感動したので、食したことはないが多くの人が美味であると言っているので、そして、小説や映画、TVドラマ、マンガ、アニメなどの作品に登場した食をどうしても食べてみたくなったので、などであろう。近年のインバウンドにおける「日本食ブーム」は、2番目の日本食レストランで食べた日本食が美味しく、本場で食べてみたいというものと推測している。実際、海外の日本食レストランの数は拡大し続け、なんと約11万8千店(2015年)あるという。  日本に訪れた外国人は、寿司、刺身、天ぷら、すき焼き、そしてラーメンなどの代表的な日本の食を楽しむが、カレーライスも多くの人が挑戦している。それは海外で放送されるアニメの食事シーンで必ず登場しているからであるらしい。日本人だけでなくローマを訪れる旅行者は、必ずスペイン広場でジェラートを食べる。勿論『ローマの休日』が生み出したブームである。そう思うと、確かに様々な作品の中で食や食事場面が登場している。その食と作品の物語、舞台となる地が一体化し観光資源となる可能性はあり、もうすでにそんな観光現象は起こっているのではないかと思う。美味しそうな研究対象である。
  • 楠見 孝, 米田 英嗣
    2018 年 5 巻 p. 2-11
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
    本研究では、作品舞台の旅における旅行者の物語への没入感に、旅行者の個人差特性、訪問時の感情がどのように影響するのか、あわせてアニメ、TVドラマ、映画、小説に差異があるかを心理学的に検討した。作品舞台の旅の経験をもつ、全国の16-79歳の男女市民800人にインターネット調査を行った。その結果、個人差特性としての懐かしさポジティブ傾向性と想像性が、旅における既知感による懐かしさや感動を喚起して、作品への没入感を深めることが明らかになった。コンテンツ間の差異に関しては、アニメの聖地巡礼は、年齢層が20-30歳代で、旅行前・中・後ともネットへのアクセスなどにおいて能動的で、感動も大きい。一方、小説の聖地巡礼は、年齢層は50-60代とやや高く、訪問時の既知感が他のコンテンツに比べて低い。したがって、訪問時における場所への既知感が高いことが没入感と関連する。
  • 『夏目友人帳』熊本県人吉市における巡礼行動を事例として
    岩崎 達也, 大方 優子, 津村 将章
    2018 年 5 巻 p. 12-24
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、アニメ聖地巡礼に見られる持続性に焦点をあて、巡礼者のその地へのリピート訪問行動という視点から消費者行動概念のフレームを用い分析を行った。熊本県人吉市におけるアニメ『夏目友人帳』の聖地巡礼者を対象とした調査から、聖地巡礼旅行者の行動メカニズムとして、彼らの行動はアニメ作品への興味、愛着により生起し、その行動の過程で関心の対象がアニメ作品から聖地が存在する地域そのものへと波及していき、その結果として再訪行動が引き起こされることが示された。このような旅行者一人一人のリピート訪問行動が、アニメ聖地巡礼による地域誘客の持続性につながっていると結論付けることができた。
  • 『おんな城主 直虎』舞台地の浜松市を事例として
    中村 忠司
    2018 年 5 巻 p. 25-33
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
    2014年にローカル・アベノミクスとして打ち出された地方創生以来、自治体の観光に対する視点が変化してきている。単に観光客の増加による経済効果だけではなく、県外へのブランディングと地元住民の地域への愛着を醸成することによる移住・定住促進も大きな目的となっている。そのため、大河ドラマを活用した観光プロモーションもなんらか変化していることが想定される。では、その拡大された観光事業の目的を達成するために、大河ドラマはどのように活用され、その手法はどのようなものであろうか。 観光・シティプロモーション課が推進協議会の事務局となっている『おんな城主 直虎』の舞台地である浜松市を中心に、『平清盛』以降6年間の大河ドラマの舞台地となった自治体の施策を事例として検証すると、市民に対しての啓発事業とホスト・ゲスト両面での市民の参加がより重要になってきていることがわかった。
  • 毛利 康秀
    2018 年 5 巻 p. 34-46
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
    本稿はコンテンツツーリズム領域における心理的・社会的知見の積み増しを目指して、その担い手であるファンの愛好行動に着目し、「フロー理論」およびその応用モデルの検討を通して、コンテンツツーリズムと社会の持続的な発展に寄与する「ファンのあり方」および地域が果たしうる役割について考察するものである。 フローとは、自己の没入感覚を伴う「楽しい経験」を指す。熱狂的なファンはコンテンツツーリズムの主導的な担い手になっているが、それは愛好対象に「はまっている」ことが「楽しい経験」としてフローの状態にあるからと説明することが可能である(ただし「はまる」ことは依存性の問題もはらんでいる)。 近年、愛好対象である「人物」の移動に合わせて旅行するファンツーリズムの研究が進んでおり、コンテンツツーリズムにもその影響が及びつつある。それは「場所」(ロケ地など)の影響をあまり受けない旅行形態であり、ファンと地域の人々との間で交流が生まれるというコンテンツツーリズムの特徴を相殺してしまう。そのような状況であるからこそ、作品にはまり過ぎず、依存し過ぎない、自立した「ファンのあり方」を模索しつつ、ファンと地域の人々が交流することによるメリットを再確認し、積極的に取り組んでいくべきではないかと考える。
  • 鳥取県岩美町「free!」の事例研究より
    清水 麻帆
    2018 年 5 巻 p. 47-57
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
    本論文では、コンテンツツーリズムにおいて、聖地への訪問回数に影響を及ぼす要因が聖地再訪と地域の人を含めた地域文化が要因であることを重回帰分析から明らかにしている。本研究の背景には、近年、コンテンツツーリズムが地域の活性化の1つとして自治体から注目され、多くがそれに関連した政策や取り組みを実施しているが、実際には試行錯誤していることが挙げられる。自治体はコンテンツツーリズムに関する知見がほとんどないため、観光振興を持続するための施策や取り組みもイベントなどの一過性のものになっているのが現状である。近年ようやくコンテンツツーリズムが学術的に研究され始め、その成果の蓄積が少ないことも1つの要因である。 そこで、本研究では、コンテンツツーリズムの再訪要因を明らかにする。その方法は、水泳青春アニメの「Free!」の舞台である鳥取県岩美町を研究対象とし、そこに再訪している人達に対するアンケート調査の結果を分析する。以下、第2節では、先行研究の整理を通じて再訪要因を検討する。第3節では、本研究の分析方法を概説し、第4節では、分析結果より、本事例におけるコンテンツツーリズムの特性と再訪要因を論考する。最後に、再訪要因から考察したコンテンツツーリズムの地域の活性化のあり方について言及する。
  • アニメーションとマンガを中心に
    陸 善
    2018 年 5 巻 p. 58-69
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
    2016年に公開された日本の劇場版アニメ「君の名は。」は2017年1月、韓国で公開されると360万人を超える観客を動員し、大ヒットとなった。そして多くの韓国ファンがアニメの舞台となった地域をめぐる、「聖地巡礼」に参加した。では、なぜ韓国でこのような動きが生じたのだろうか。 韓国の国産アニメーションとマンガを中心にコンテンツ産業の現状を調査・分析すると、韓国のマンガ業界とアニメーション業界はそれぞれ独立して発展してきたことが分かる。マンガはドラマや映画などの2次創作物として制作されることが多く、それに対してアニメーション業界は個性や芸術性を強調した作品で国内外に高い評価を受けている。こうした特性のもと、地域活性化のためにマンガやアニメーションを活用する取り組みが始まりつつあり、コンテンツツーリズムとの新たな関係が生まれていると考えることができる。 そこで本稿では、韓国でコンテンツツーリズムを促すためには作品のアイデンティティーの確立とターゲットを確実に設定することはもちろん、コンテンツツーリズムの概念を整備し、具体的な政策を展開していく必要がある点に注目していく。
  • 岡嶋 裕史
    2018 年 5 巻 p. 70-78
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
    ポストモダン化、ポストモダン社会は、社会学的な構造を表現したものだが、筆者はこれがインターネット技術との密接な共犯関係の上に成り立っていると考える。本研究ではこの構造のモデル化を行う。しかる後に、現在の社会で顕在化している諸問題、すなわちSNS炎上や、ネット空間における言論の過度の攻撃性、世俗的聖地巡礼の興隆などについてこのモデルを適用し、十分な蓋然性があることを説明する。
  • 山梨県を事例として
    中村 容子
    2018 年 5 巻 p. 79-88
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
    山梨県では、1956年に観光事業振興5ヵ年計画を立て、戦国武将武田信玄の観光活用を開始した。高度経済成長期の最盛期の1969年に、大河ドラマ「天と地と」が放映されると、同年に武田信玄の銅像の建立、放映後の1970年に「信玄公祭り」が創作され、これらは観光客の増加に拍車をかけることになった。その反面、武田信玄関連の史跡の荒廃が問題視された。 「武田信玄」放映に際しては、バブル経済の好景気を背景に、大河ドラマのロケ地建設や武田信玄関連史跡の整備が行われた。しかし、放映後の観光客数は放映前の数値に戻った。また,観光客によるゴミ投棄や違法駐車など地域住民に対する迷惑行為がみられた。そして、「風林火山」は、甲府市中心商店街の活性化を意図した観光客誘致の新たな取り組みがみられた。 山梨県を舞台とした大河ドラマ3作品は観光活用に寄与しており,そこには大河ドラマの作品内容の違いや当時の社会情勢が反映されており、個々に異なる観光活用を行ったといえる。
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