抄録
背景:日々のトレーニング負荷を定量化し、身体への内的負荷をモニタリングすることは、選
手の身体的負荷を的確に把握し、コンディションの予測や傷害予防の面でも有益といえる。
実践報告の目的:筆者らはウエイトリフティング選手の身体負荷の指標として心拍変動(Heart
rate variability:HRV)を、またクラウドシステムを通じて主観的な指標を継続してモニター
してきた。本研究では選手が実践したトレーニング負荷を定量化し、両変数との関連性につい
て報告する。
対象:大学生女子ウエイトリフティング選手2名。Sub.A:19歳 競技歴5年7ヶ月、ユニバーシアー
ド9位)。Sub.B(20歳 競技歴2年7ヶ月、全日本選手権9位)。測定期間はSub.Aが10週間、Sub.
Bは6週間。
測定手順及び分析方法:①トレーニング負荷量(TRIMP):選手が行ったトレーニングをまず種
目ごとに計算し(%1RM×Rep×Set×種目別係数)、セッション内で行われた全種目の総和を
Training Impulse(TRIMP)として求めた(種目別係数はSnatchおよびClean & Jerkを基準値
(1.0)とし、全種目の係数をコーチが設定した)。②身体的負荷(HRV):練習前および練習終了
30分後に選手の心拍(R-R間隔)を安静仰臥位にて5分間計測(Ho-sand製Minicardio PRO)し、
lnRMSSD(迷走神経活動指標)の練習前後の変化量を求めた。③主観的負荷:アスリートの
データ管理のためのツール「Atleta (アトレータ)」(提供者:株式会社エムティーアイCLIMB
Factory スポーツITカンパニー)を使用し、選手自身が感じた「練習強度」を、毎日の練習後
に選手自身がスマートフォンから入力し、0~100の間で数値化された。TRIMPとlnRMSSDの変化
量、またTRIMPと「練習強度」との関連について、対象者個別にPearsonの積率相関係数を求めた。
結果:Sub.A においてTRIMPとlnRMSSDの変化量との間で(r=0.479 p<0.001)、またTRIMPと「練
習強度」との間で(r=0.668 p<0.001)それぞれ有意な相関関係が認められた。またSub.Bにつ
いてはTRIMPとlnRMSSDの変化量との間で(r=0.398 p<0.05)、またTRIMPと「練習強度」との間
で(r=0.493 p<0.05)各々有意な相関関係が認められた。
考察:実践されたトレーニングは、スナッチやハイクリーンなどのリフティング種目での高強
度の低repのセットを中心としたが、低負荷での技術的な練習や、80%1RM前後の負荷で限界近
くまで追い込むセットも含まれる。ウエイトリフティング選手が実際に行っている複合的なト
レーニング内容において、トレーニング負荷量と選手の内的負荷との関連性が認められた。し
かし内的負荷がTRIMPから予測される値を外れることも散見され、現場レベルで選手の負荷を
判断する精度には至っておらず、修正の必要がある。また2名の被験者間で相関の強さに差異
が見られたが、これには経験の差、または技術レベルの違いが影響していることも考えられる。
【現場への提言】トレーニング負荷が及ぼす内的負荷には個人差が見られること。また内的負
荷が予測値を外れる場合には、コンディションや心理的な問題を伴うことがあり、注意が必要
である。