抄録
背景:剣道の打突とフォワードランジの関係はその有効性が報告されているが、剣道の実践に
おける打突はスピードの要素が大きく、剣道の基本技とスピードパワータイプのプライオメト
リクスエクササイズとの関係性を確かめたいと考えた。
実践報告の目的:メディシンボールスローのパフォーマンスが正面打ちの打突に影響を与える
かについて確かめることとした。
対象者または対象チーム:高校剣道部に所属する男子12名(平均身長171.6±6.0cm、平均体重
63.3±9.3kg、平均年齢16.2±0.7歳、平均競技歴8.1±2.8年、段位三段4名、二段5名、初段3
名である。
測定環境:高校内の剣道場(15m×15m)で行った。剣道の特性を踏まえて全ての測定を裸足
にて行った。メディシンボールはゴム製で2kgのものを用いた。
測定手順及び分析方法:(1)正面打ちは、右足のつま先を測定開始点となる線に合わせて立ち、
測定開始点から巻き尺を設置した。打突を受ける者は、竹刀が巻き尺に直交するように額の高
さに構えて立ち、被験者の打突は、もの打ちの部分で打つことと、残身がとれることを条件と
した。上段の選手は片手による打突を採用した。尚、測定する数値は10㎝刻みとした。(2)メ
ディシンボールスローは、肩幅で立ち、反動をつけたしゃがみ込み動作から、水平方向へのパ
ワー発揮を意識した両手下投げ前方への投射を行い、メディシンボールが手を離れた時点から
14m先の地点へ到達するのに要した時間をストップウォッチで手動計測した。投射角度は身長
を超えない高さを条件とした。(3)立ち幅跳びの距離を文部科学省新体力テストの手順で測定
した。測定した数値の相関係数を求めた。
結果:正面打ちの距離と、メディシンボールスローのタイムとの間に弱い相関が見られた(r=-
0.335)。また、正面打ちの距離と立幅跳びの距離との間にも弱い相関が見られた(r=0.219)。
考察:中段の正面打ちは、実践打ちにおいては下肢による水平方向へのパワー発揮と竹刀を前
方へ押し出した後、左手を引くことで剣先を加速させる動作が行われている。今回の結果から、
弱い相関ではあったがメディシンボールスローは水平方向へのパワー発揮能力と肩甲帯から発
揮される上肢の押し出し動作を含んだ特異的なトレーニング種目として採用してもよいと考え
る。
【現場への提言】メディシンボールでのトレーニングは器具等の準備が最小限であり、プライ
オメトリクストレーニングは体力トレーニングと競技動作をつなぐ効果が期待できるため、簡
便性の面からも実施しやすいトレーニング種目である。