抄録
背景:競技者の身体組成は、パフォーマンスと関係性が深く様々な競技で検討されているが、
バレーボールのジャンプサーブにおける筋肉量とボール速度の関係性を示したものは見当たら
ない。そこでチームで定期的に測定している、Inbody470 の結果から四肢や体幹部を構成する
筋肉量を定量化し、ジャンプサーブのボール速度とそれらの関係性を検討した。
実践報告の目的:バレーボールにおけるジャンプサーブのボール速度と四肢や体幹部の筋肉量
の関係性を検討し、ボール速度の高い選手にみられる形態的特性を明らかにし、トレーニング
プログラムの作成を行う上での知見を得ることを目的とした。
対象者または対象チーム:2020 年V リーグディビジョン1に所属する男子選手8 名。年齢24.6
±1.8 歳、身長186.1±3.9cm、体重80.8±3.9kg
測定環境:筋肉量は練習前に体育館で測定した。ジャンプサーブは、チーム練習におけるサー
ブ練習時に、試合の時にジャンプサーブを打つ選手を測定した。
測定手順:調査機関は、2020 年8 月。筋肉量の測定は、生体電気インピーダンス方式を用いた
体成分分析装置(inBody470 株式会社 インボディ・ジャパン)を用いて、体組成の測定を行
い、全身およびセグメント別の筋肉量を求めた。体重と体脂肪率を同時に測定し、除脂肪量を
算出した。なお、測定前には、いずれの被験者も食事から2時間以上の時間をとり、排尿を済
ませ、Inbody470 の取扱い説明書の手順に基づいて測定を実施した。
ジャンプサーブの測定は、ジャンプサーブを打つ選手の向かい側の定点(エンドラインの中
央4.5m 地点から後方10m の地点、高さ2m にスピードガンBSG-1 Basic(YUPITERU 社製)を設
置してサーブ速度を測定し、各個人の最も速いサーブ速度を測定値として採用した。
分析方法:全ての測定値は平均値±標準偏差で示した。なお、上肢と下肢の筋肉量は、ジャン
プサーブの影響を検討する目的から、サーブでボールを打撃する手の側を打撃側上肢、打撃側
下肢、サーブでボールを打撃する側の反対側を非打撃側上肢、非打撃側下肢とした。ジャンプ
サーブ速度と筋肉量の関係については、ピアソンの相関関係を用い有意水準は5%未満とした。
結果:ジャンプボール速度と形態的特性の関係について統計的に有意な正の相関が認められた。
項目は、打撃側の上肢(r=0.63,p<0.05)であった。
考察:本研究において、ジャンプボール速度と打撃側上肢の筋肉量において有意な正の相関
(r=0.63)が認められた。胴体の筋肉量に関しては有意な正の相関(r=0.49)が認めらなかった
が、ジャンプボール速度への関係が他の部位よりも影響があることを示唆する結果となった。
セリンジャーは、ジャンプサーブでは、腰は前に回転し、肩の後ろに残っている打つ腕は、ボ
ールに接触するまで加速を続ける、と述べている。本研究において、腕が加速していく際にど
この筋肉量の影響が大きいのかを示唆するものであった。
【現場への提言】本研究においてサーブ打撃側の上肢の筋肉量が多い者ほどジャンプボール速
度が速かったこと。また、胴体の筋肉量も少なからず影響を受ける結果となったことは、筋肉
量の分布もボール速度向上に重要であること示唆している。そこで個別のサーブ技術でのプレ
イスタイルを考慮し、ジャンプサーブ速度を上げるための特異性絵を目的としたレーニングプ
ログラムの作成、エクササイズの選択の知見になり得ると考える。