抄録
【トレーニング現場へのアイデア】
他者への支援の多忙さによって、自身の健康に目を向けることのできないケアラー、准
ケアラーに対して、運動する機会を与えることは、本人への健康課題改善に寄与すること
はもちろんのこと、「被支援者に対する支援の機会及び支援期間の延長」、「被支援者のサ
ポートのより一層の充実」など被支援者に対するメリットも提供できると考えられる。ま
た、その先では医療・介護保険費の削減など日本社会に貢献する可能性がある。
背景:ケアラー健康状態調査(日本ケアラー連盟)では、東京都杉並区に住むケアラーの
約7 割が身体的不調を抱えており、ケアラー男女比は30.6:69.4 と報告されている。一
般的に運動器不調に対処するには、健康体操が有効な手段とされているため、ケアラーに
対しても同様の運動介入により、身体的かつ精神的不調解消の一助になる効果が見込まれ
る。また、先行研究においても人数比率は女性が高いため、ケアラーへの運動介入を男女
間で比較することで、その女性多数の現状改善に寄与する可能性がある。
実践報告の目的:ケアラーに対し運動機会を提供、男女別心理効果を調査することで、ケ
アラーに対する運動支援効果、女性多数の現状改善に係る知見を得ることを目的とする。
対象者:2021 年6 月から9 月までに開催された、ケアラートレーニング会に出席したケア
ラー、准ケアラー計23 名(年齢35±1.2 歳、男性10 人、女性13 人)であった。
測定環境:実施場所(レンタルスタジオ、地域柔道場)で介入方法は、谷本らが推進する
サーキット式コンバインドトレーニングを模倣した方法を用いた(無酸素運動30 秒、有
酸素運動60 秒を8 セット実施し、4 セット終了時に60 秒間休息時間を挟んだ)
測定手順及び分析方法:参加者の運動による心理的効果について調査するため、日本語版
主観的運動体験尺度(SEES-J)を用いて、運動前後に男女間の4 標本で比較した(運動前
後:対応のあるt 検定、男女間:対応のないt 検定)。
結果:男女別運動前後、男女間SEES-J すべてに有意差は認められなかった。
考察:本研究では、ケアラーの男女比が女性多数になっている現状改善と身体的精神的不
調改善への知見を求めて比較した。林が高齢者を対象に運動を行わせた調査では積極的安
寧因子(PWB)と疲労感因子(FAT)の増加が認められていたが、今回ケアラー男女間、男
性のみ、女性のみでは有意差が認められなかった。この結果には、ケアラーの多忙な生活
様式、ケアラーへの支援が少ない現状から疲労度が高く、運動前後でFAT に差が認められ
なかったと考えられる。今回の研究結果から今後は、ケアラーの対象者数を増やして検討
することが必要であると考えられる。