抄録
【トレーニング現場へのアイデア】生活用品として広く普及している「ボックスティッシュ」
を利用し,片脚スクワット動作の沈みこみの深さを段階的に測定することで,簡便に下肢筋力
を評価できるかもしれない.
背景:トレーニング指導の現場では専用の測定機器を用いることなく運動機能をチェックでき
ることが望ましい.そこでサイズにある程度の基準が設けられているボックスティッシュの各
辺の長さを利用した測定を考案し,実践・検証することとした.
実践報告の目的:ボックスティッシュを用いた下肢筋力評価値の分布および既存の体力測定項
目との関係について明らかにすることを目的とした.
対象者または対象チーム:2023年4~7月に健康・スポーツ科学系の実習講義を受講した男子大
学生598名を対象とした.
測定環境:室内にて測定を実施した.薄型タイプ(W230mm/D115mm/H50mm)のボックスティッシュ
を用いた.シューズの厚みの影響を排除するため裸足にて測定を実施した.
測定手順及び分析方法:ボックスティッシュを用いた下肢筋力評価の動作は,両腕を前方に伸
ばし,片脚を持ち上げて同脚の膝を90°程度曲げた状態の立位から開始する片脚スクワット動
作とした.測定脚(支持脚)と反対脚の膝が足元床面に置いたボックスティッシュに接触した後,
元の立位姿勢に戻ることを成功試技とした.ボックスティッシュの置き方(辺の長さの3段階)
および床面(0㎝)でスクワット動作の沈み込みの深さを規定し,片脚で4段階,両脚で3段階,
計7段階の評価値とした.併せて,柔軟性の評価として,下肢筋力評価と同様にボックスティッ
シュの置き方および床への手のつき方(指を伸ばす~手のひら)によって立位体前屈を8段階
で評価した.既存の体力測定項目として,立ち幅跳び,カウンタームーブメントジャンプ(CMJ),
2ステップテストおよびファンクショナルリーチテスト(FRT)を実施した.
結果:ボックスティッシュを用いた下肢筋力は最も高い段階の評価値に偏った分布となった
(55.2%).ボックスティッシュの筋力評価値別に群分けし,他の測定項目の平均値を比較すると,
立ち幅跳びおよびCMJについて段階的に平均値が高まり,群間には有意差が認められた.また,
ボックスティッシュの筋力評価値が高いものは,立位体前屈による柔軟性やFRTの値も高い傾
向であった.
考察:ボックスティッシュの下肢筋力評価値が高い者では,ジャンプ系動作のパフォーマンス
も高値となる傾向から,ボックスティッシュを用いた片脚スクワット動作の段階的評価は下肢
筋力の評価方法として活用できる可能性がある.一方,本研究における評価方法では大腿後面・
腰背部の柔軟性やバランス能力など,下肢筋力以外の要因が片脚スクワット動作のパフォーマ
ンスを制限していることも考えられる.