2019 年 10 巻 1 号 p. 1_109
(緒言)
オートファジーは,体タンパク質分解機構の1つであり細胞内のタンパク質を分解することにより細胞の恒常性維持に働いている.現在までに卵巣摘出後3週間経過した卵巣摘出(OVX)ラットで肝臓におけるオートファジー活性の減少が見られることを学内共同研究において報告している.
オートファジーは生体内においてアミノ酸や血糖,インスリン,コレステロールなどにより抑制的に調節されている.そこで本研究は,卵巣摘出後の肝臓オートファジー及び血中のオートファジー制御因子の変化を経日的に調べ,卵巣摘出による肝臓オートファジー低下の形成メカニズムの解明を目的として行った.
(研究方法)
卵巣摘出手術後1,3,7,14日目のOVXラット及びShamラットから肝臓及び血液を採取し,肝臓中のオートファジー活性と血液中のオートファジー制御因子について測定した.オートファジー関連タンパク質であるLC3は,オートファジーの活性化に伴いLC3-ⅠからLC3-Ⅱへ変換されるため,LC3-Ⅰ及び-Ⅱをウェスタンブロット法で検出し,それらの量をオートファジー活性の指標とした.血中のオートファジー制御因子の変化を調べるために,血糖値,インスリン濃度及び総コレステロール濃度の測定を行った.また,コレステロール合成・吸収マーカーについても測定を行い,卵巣摘出ラットで顕著に見られる血中コレステロール濃度の上昇との関連性についても検討した.
(結果)
オートファジー活性の指標となるLC3の量を測定した結果,卵巣摘出手術後1日目では,Shamラットに比べてLC3量は増加した.その後,3日目になると両群の差はなくなり,7及び14日目ではOVXラットでLC3の減少が確認された.従って,OVXラットの肝臓で生じるオートファジー活性の低下は卵巣摘出後1~3日程度では起こらず,7日以上経過した段階で生じることが明らかとなった.
血糖値は卵巣摘出手術後1,3,7,14日目のいずれにおいても両群間で差はなかった.一方で,OVXラットのインスリン濃度は1日目ではShamラットに比べて低値を示したが,3,7,14日目では逆転し高値を示した.特に7日目ではOVXラットで有意なインスリン値の上昇が確認された.
血中総コレステロール濃度は3,7,14日目においてOVXラットで高値を示し,卵巣摘出による血中コレステロールの上昇が確認できた.また,14日目においてコレステロール合成・吸収マーカーを測定すると,OVXラットでは合成量に変化はなかったが,コレステロール吸収量がShamラットに比べて増加することが明らかとなった.このことが血中コレステロール濃度を上昇させる要因であると考えられる.
(考察)
オートファジー活性と血中のオートファジー制御因子の結果を照らし合わせる.まず,血糖値の関与は確認できなかった.卵巣摘出手術後1日目で見られたオートファジー活性の一過的な増加はインスリン濃度の減少が関係していることが考えられる.オートファジー活性が低下していた7,14日目では,血中のインスリン濃度やコレステロール濃度の増加が確認され,オートファジーの活性低下との間に一定の関係性が確認できた.しかし,インスリン濃度やコレステロール濃度は卵巣摘出後3日目ですでに高値を示すが,その時のオートファジー活性に変化は見られなかった.
従って,OVXラットで見られる肝オートファジーの低下には,インスリンやコレステロールの増加が影響を及ぼしている可能性が示唆された.しかし,それらの制御因子の変化とオートファジー活性の変化の間にはタイムラグがあり,必ずしも一致しない部分も見られた.さらに,OVXラットではコレステロール吸収量の増加が見られた.このことが血中コレステロール濃度の上昇に関係していると考えられるため,今回の結果から,コレステロール吸収を抑制することでOVXラットの肝オートファジー低下が改善できる可能性も示唆された.
(倫理規定)
本研究は,千葉県立保健医療大学動物実験研究倫理審査部会の承認(2017-A005)を得た上で,千葉県立保健医療大学動物実験等に関する管理規程に従って行われた.