千葉県立保健医療大学紀要
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第9回共同研究発表会(2018.8.28)
作業療法学生の臨床実習適応能力の向上のための学内検査測定実習の取り組み
有川 真弓松尾 真輔
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2019 年 10 巻 1 号 p. 1_117

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抄録

(緒言)

 作業療法学生が初めて一人で病院等の施設へ行き,現場の作業療法士の指導を受けて対象者と関わる臨床実習(3年次通年科目評価実習Ⅰ・Ⅱ,以下評価実習)の前には,学生の不安が募る様子が見られる.評価実習前には検査測定に関する講義や学内での・実習,OSCEを意図した学内実技試験を設けているが,いずれも被験者は学生であり,障害のある対象者に直接関わることなく評価実習に出ている.これは付属病院を持たない本学専攻のカリキュラム上の限界であり,学生の不安増大の一因にもなっている

 県内のある就労移行支援事業所では,作業療法学生の検査測定,ADL評価の実習に障害者を評価モデルとして派遣する事業を行っている.このような外部機関を活用した学内実習教育を取り入れる他の作業療法養成校も増えており,新たな学内実習教育として期待されている.

 平成28年度の研究で,学生の緊張状態は実技実習の有無にかかわらず評価実習前に高くなること,評価実習を経験することで臨床実習適応能力が高くなったと感じることが分かった.

 本研究の目的は,本学作業療法学専攻において,学内検査測定実習の効果が障害者を対象とした場合と健常者を対象とした場合で異なるのか,健常者と障害者の両者の検査測定実習を受けることでどのような効果があるかを検証することを目的とした.

(研究方法)

 対象は平成29年度作業療法学専攻3年生のうち,研 究協力の承諾が得られた学生である.Profile of Mood States 2nd Edition(POMS2),作業療法学生の臨床実習適応能力の自己評価尺度(臨床実習適応能力),評価測定に関する知識を問う設問(実技知識)を1)通常授業期間1(①通常1),2)健常者を対象とした学内検査測定実習後(②健常者実技実習後),3)評価実習の前に行った障害者を対象とした学内検査測定実習後(③障害者実技実習後),4)評価実習終了後(④評価実習後)の4回収集し,Wilcoxon順位和検定にて検討した.

(結果)

 POMS2では,②健常者実技実習後と③障害者実技実習後の総合的気分状態の比較では,P=0.0375で③障害者実技実習後が有意に高値となった.③障害者実技実習後の平成28年度と29年度の比較では,P=0.0137で平成29年度の方が低かった.

 臨床実習適応能力は,②健常者実技実習後と③障害者実技実習後との比較で③障害者実技実習後がP=0.0002で,③障害者実技実習後と④評価実習後の比較で④評価実習後P=0.0066で有意に向上した.

 実技知識の正答率は②健常者実技実習後で14.6%,③障害者実技実習後で35.4%であった.②健常者実技実習後と③障害者実技実習後の正答率は,関節可動域測定問題(以下ROM問題)で,②健常者実技実習後は図式問題が8.3%,文章問題が25.0%の正答率に対し,③障害者実技実習後では図式問題が41.7%,文章問題が70.8%であった.

(考察)

 学生は評価実習の前である③障害者実技実習後は緊張状態が高いながら,平成29年度の方が③障害者実技実習後の総合的気分状態は有意に低く,健常者実技実習と障害者実技実習の両方を経験することにより緊張状態が緩和されることが考えられた.

 臨床実習適応能力は,②健常者実技実習後よりも③障害者実技実習後が有意に向上し,健常者実技実習では習得できない能力が障害者実技実習で習得できたと学生が感じていることが分かった.

 実技知識では,②健常者実技実習後よりも③障害者実技実習後の正答率が高く,特に実技技能の基礎となるROM問題についての正答率は,筋力検査問題や感覚・反射検査問題と比較しても大きな変化が見られた.今回の研究では実技知識を問う設問として,過去の国家試験問題を使用したが,今後はOSCEを導入し,臨床実践場面に則した状況下で学生の評価を行い,学生の理解が確認できる手法を検討していく必要があるものと考えられた.

(倫理規定)

 本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員 会の承認を得て実施した.

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