2019 年 10 巻 1 号 p. 1_129
(緒言)
人はだれでも間違える.しかし間違いを防ぐことはできる(Kohn2000)1).ハインリッヒの法則である1件の重大事故の裏には300件のヒヤリ・ハットがあり,それらを把握し改善を図ることが重大事故予防になる.周産期医療・看護の特徴としては,母体と胎児の命をあずかりどちらにも急変がありうる,予後が悪ければ過誤があったように受け取られやすいなどがあるためリスクマネジメントが難しく2),産科における事故は分娩に関連したものが圧倒的に多いとされている.また周産期看護におけるインシデント・アクシデントレポート提出や活用が十分ではないため事象の伝承による再発防止への取り組みを強化していく必要がある3).そこで本研究の目的は,既存の報告フォーマットを参考に,周産期看護における分娩期ヒヤリ・ハット事例収集のための報告フォーマットを作成することである.
(研究方法)
既存の医療事故事例,ヒヤリ・ハット事例,インシデント・アクシデント事例等の報告フォーマットを収集し,報告フォーマットの記載内容の視点を文献検討した.それらを参考に周産期看護における分娩期ヒヤリ・ハット事例報告のフォーマットを作成した.次にその報告フォーマットの妥当性の検討と修正は,母性看護学・助産学3名,看護管理学1名,医療安全に関する専門家1名から意見を聴取し修正した.
(結果)
1)既存の報告フォーマットの収集
・WHO 有害事象報告システム(MIMPS)
・ 日本医療機能評価機構 医療事故情報収集等事業医療事故情報・ヒヤリ・ハット事例
・ 日本医療機能評価機構 産科医療補償制度
原因分析報告書作成にあたっての考え方
・ 公益社団法人日本助産師会保健指導部
ヒヤリハット体験報告書・Good Job報告書
・ 5施設の医療事故・ヒヤリハット・インシデント・アクシデント報告書
2)報告フォーマットの記載内容の視点
・ 状況認識モデル(Endsler, 2000)
知覚→理解→予測
・P-mshellモデル(河野,2004)
P患者,mマネジメント,sソフトウェア,hハードウェア,e環境,l本人,l周りの人
・危険予知トレーニングKYT4ラウンド法(住友金属,1973;兵藤・細川2012)状況把握→本質追究→対策樹立→目標設定
3)周産期看護における分娩期ヒヤリ・ハット事例報告のフォーマットの作成〈項目内容〉
・ 当事者の職種,当事者の経験年数,当事者の部署 の配属年数,当事者以外の関連職種
・発生時刻(日勤帯,夜間帯:準夜・深夜,時刻)
・ 発生場所(分娩室,陣痛室,診察室,病室,廊 下,トイレ,その他)
・発生時期(入院前,入院時,入院中,その他)
・分娩経過の発生時期(分娩開始前,分娩第1期,分娩第2期,出生時,分娩第3期,分娩第4期,分娩後,その他)
・ヒヤリ・ハットの種類(入院に関する電話相談,分娩経過の判断,CTGモニターの判読,助産ケア,処置,薬物,指導内容,情報伝達,その他)
・ヒヤリ・ハットの具体的な内容
・当事者の判断や予測と対応
・発生要因
・再発防止策
・ 経験から学んだこと,危険予知能力にいかされた こと
(考察)
本研究の結果から,周産期看護における分娩期ヒヤリ・ハット事例報告フォーマットを作成した.これを産科医療機関の管理者へ研究協力施設に配属している助産師・看護師に対して,自記式質問紙として分娩期ヒヤリ・ハット事例報告フォーマットを配布するよう依頼予定である.分娩期ヒヤリ・ハット事例の収集により,フォーマットの評価及び分娩期に起こりやすいヒヤリ・ハットを明らかにしたい.