千葉県立保健医療大学紀要
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第10回共同研究発表会(2019.8.28)
保育所看護職が認識している「気になる子」への保健活動の実態
中山 静和西野 郁子石川 紀子
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2020 年 11 巻 1 号 p. 1_58

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抄録

(緒言)

 近年,保育現場では「気になる子」の存在が指摘されている.「気になる子」の明確な定義はないが,先行研究において,「対人トラブル」「落ち着きのなさ」「状況への順応性の低さ」「ルール違反」などの特徴を示し,障害の診断は受けていないが特別な支援を要し, 保育者にとって保育が難しいと考えられている子どもとして用いられている.「気になる子」は全国の保育所の90%以上に在籍しているが,「気になる子」への支援が十分でないことが課題とされている.

 本研究では,保育所看護職が認識する「気になる子」への保健活動の実態について調査し,保育所看護職による「気になる子」への保健活動に対する課題を検討することを目的とした.

(研究方法)

 関東圏内A県の公立・私立保育所に勤務し,「気になる子」に関わったことのある看護職を対象とした.保育所看護職経験年数は,「気になる子」の特徴を理解したうえで保健活動を実践したと考えられる期間を考慮し,6か月以上とした.調査は2018年8月~11月に実施した.対象者の所属する施設内で面接ガイドに沿って1名につき60分程度の半構成的面接調査を実施した.対象者の許可を得て,ICレコーダーを使用し,語りの内容を録音した.面接データから,保育所看護職が「気になる子」への保健活動として実践している具体的な活動内容に関する記述について,活動対象者別に質的帰納的分析を行った.また,共同研究者間で協議を重ね,分析の妥当性の確保に努めた.

(結果)

 対象者は7名で,全員女性であった.保育所経験年数は1年10か月~20年であり,常勤が5名,非常勤が2名であった.

 分析の結果,保育所看護職における「気になる子」本人への保健活動として,【安全を守る】【心身の健康管理をする】の2つのカテゴリーが抽出された.【安全を守る】では,保育所看護職は,「気になる子」が施設外に飛び出して危険が及ばないように,保育士と連携を取りながら安全の確保をし,1対1で関わりながら「気になる子」を見守っていた.【心身の健康管理をする】では,保育所看護職は「気になる子」が逃げ回る等の行動が見られた際に別室に移動し,短く簡潔な言葉で声を掛け,クールダウンできるための関わりをしていた.また,保育所内の巡回時に「気になる子」を観察しながら関わることや,保護者によって記載された連絡帳・保育士がもつ情報・母親との会話から「気になる子」の健康状態についての情報収集をし,アセスメントに繋げていた.さらに「気になる子」が伝えてくる身体症状に対応しながらコミュニケーションを図り,噛みつきなどの怪我への対応をして健康管理をしていた.

 また,保育士に対する活動では,【保育士との情報共有と支援のアドバイスをする】が抽出された.保育所看護職は,保育士が「気になる子」への支援が実践できるための保育所看護職としての意見や,具体的な支援内容についてのアイデアを伝えていた.また,保護者への活動では,【保護者の相談に乗る】が抽出された.「気になる子」に医療的な配慮の必要性がある場合に,保育所看護職として保護者の相談に乗り,必要時は保護者と保育士の面談に出席していた.しかし,このような保育士および保護者に対する保健活動について述べたのは1名であった.

(考察)

 今回の研究では,保育所看護職は「気になる子」への保健活動として,危険を伴う行動を取るという特徴に対し安全面の確保しながら,「気になる子」の心身の健康管理を中心に実践していると推測された.一方で,保育士や保護者への支援については十分ではないことが考えられた.今後は,保育士とともに互いの専門性を活かした「気になる子」への組織的な保育・保健活動について検討する必要がある.

(倫理規定)

 本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した.(承認番号2018-23)

(利益相反)

 利益相反に関する開示事項はありません.

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