千葉県立保健医療大学紀要
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第10回共同研究発表会(2019.8.28)
糖尿病発症予防を目的としたライフスタイル教育プログラムの評価
海老原 泰代岡田 亜紀子渡邊 智子渡辺 満利子
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2020 年 11 巻 1 号 p. 1_59

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抄録

(緒言)

 メタボリックシンドローム(Mets)は2型糖尿病を増加させ(Lorenzo, et al., 2003),心血管疾患者死亡率(Maaria, 2002),癌発症(Gallagher, et al., 2013)をも高めることが報告されている.わが国の糖尿病罹患者は全人口の11.2%を示し(厚生労働省,2013),全世界平均7.9%を上回り(WHO),いまや糖尿病予防は緊急課題であり,効果的な方策が希求されている.厚生労働省は平成20年よりMets対策のため特定健診・保健指導を開始した.

 我々は,これまでに千葉県内某事業所従業員256人(40~60歳)の特定健診結果と食事調査結果を分析し,Mets罹患と「夕食のまとめ食い」「夜遅い食事」等の食生活スタイルに関連がある事を明らかにした.さらに,特定保健指導経験豊富な管理栄養士は,糖尿病の発症予防にはMetsリスク保有者に対し,エネルギーコントロール源である脂質を減らす指導は優先度が低く,体重管理よりも糖質の量・摂り方等の血糖コントロールに重点を置いた支援をしていることがわかった.これらの調査結果をもとに,Metsリスク保有者の糖尿病発症予防を目的としたライフスタイル改善プログラムの一環として,栄養教育教材「健康マネージメント手帳」を開発した.

 本調査では,「健康マネージメント手帳」を用いた食生活改善支援をすることで,Metsリスク因子および血糖コントロールに影響を与える食べ方や栄養素等摂取量などライフスタイル改善の効果について明らかにすることを目的とした.

(研究方法)

【対象】特定健診・特定保健指導を実施する千葉県及び千葉県近郊の事業所従業員(年齢20~74歳男女),介入群36人,対照群17人合計53人.

【内容】Metsリスク保有者である特定保健指導対象者に対し,内臓脂肪型肥満改善を目的とした特定保健指導と並行して本研究で開発した「健康マネージメント手帳」を使った栄養教育プログラムを実施し,ライフスタイル改善の定着を図る.

 介入群:血糖値の上昇を抑えつつ,Metsを改善する食事と身体活動を含むライフスタイルについての教育を行う.実施前後に食事摂取頻度調査票(FFQW82)による食事摂取頻度調査を行い,「健康マネージメント手帳」に基づく食行動改善を提案する.

 対照群:内臓脂肪型肥満改善のための食事と身体活動の教育を実施する.

【評価方法】介入前後の特定健診結果の喫煙を含むMetsリスク要因および血糖コントロールに影響を与える食べ方や栄養素等摂取量の変化を評価した.

【解析方法】Mets該当の有無の群間比較はカイ二乗検定,検査値の比較は対応のあるT検定を行った.解析にはIBM SPSS24を使用した.

(結果)

 1年後の健診結果では,介入群ではMetsリスク因子数が2つ以上のMets該当者数は介入前後とも6人でMetsリスク該当者人数に変化はなかった.Metsリスク因子数が1つの予備群該当者数は24人から20人と4人減少し,該当なしは6人から9人へと3人増加した(p=0.04).対照群ではMets該当者は4人から3人の1人減少,予備群該当者は9人から7人の2人減少,該当なしは3人増加した(p=0.03).両群共に1年後にMetsリスク数の変化による該当者・予備群該当者の有無は有意に変化したが,2群間に有意な差は無かった. 介入前後の血糖値の変化量は介入群1.9 ㎎ /dl, 対照群-1.8 ㎎ /dlおよびHbA1cは0.1 %,0.0%と両群に有意な差は無かった

 Metsリスク数が減少した者は野菜の摂取量が増える,野菜を先に食べる等の食行動改善が見られた.

(考察)

 ライフスタイル改善指導により,Metsリスク数が有意に変化することが明らかになった.「健康マネージメント手帳」を用いた糖尿病予防の栄養教育プログラムを追加することによる,血糖値等の有意な差はみられなかった.しかし,Metsリスク数が減少した者は,本プログラムで推奨した野菜摂取量の増加など,血糖値改善効果のある食行動を続けていた.本プログラムは糖尿病発症予防のための食行動改善に影響を与えることが示唆された.

(倫理規定)

 本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2016-005).

(利益相反)

 開示すべきCOI関係にある企業等はありません.

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