千葉県立保健医療大学紀要
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第11回共同研究発表会(2020.9.7~9.11)
虚弱高齢者の生活機能は回復するか
─ 長期縦断調査による解析
島田 美恵子金子 潤荒川 真河野 舞岡村 太郎綾部 誠也濃野 要
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2021 年 12 巻 1 号 p. 1_100

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抄録

(緒言)

 「フレイル」は単に身体機能面のみでなく,社会的・精神的な側面の低下も含む概念と評価であり,しかるべき介入により再び健康な状況にもどる可逆性を示すことに特徴がある.今日,多面的な側面からの介入方法およびエビデンスの蓄積が求められているが,フレイル状態となった高齢者の,回復期リハビリテーションを含む健康状態の変化を,長期に追跡した報告は稀少である.本研究の目的は,長期縦断調査に基づいた生活機能(身体的自立,知的能動性,社会的役割)と体力の加齢変化を把握することで,虚弱(フレイル)高齢者への健康支援介入方法を開発する基礎資料を得ることである.

(研究方法)

 本研究では,①新潟市高齢者調査1),②千葉県健康調査について解析した.本報告での測定項目は,身体計測,体力(握力・開眼片脚立ち),老研式活動能力指標とした.

 ①我々研究チームは,1998年から,新潟市在住1928年生まれの高齢者600名(1998年当時70歳)に対し,介入を伴わない年1回の健診を20年間継続している.老研式活動能力指標にみる20年間の生活機能および体力の変化を,90歳までの生存・死亡群別に比較検討した.②2011年から,不定期に,千葉県在住の高齢者203名(平均年齢76.6±5.9歳)に対し,年1回の健診と月1回程度の健康教室開催による介入を継続している.対象者の初回調査において,握力が男性28㎏以下,女性18㎏以下をプレフレイル高齢者と選定し,4年後の体力の変化を検討した.

(結果)

新潟調査:老研式活動能力指標でみる「社会的役割」は,79歳時おいて,死亡群と比較して生存群が高値であり,また生存群では死亡群と異なり70-79歳までに著しい低下はみられなかった.生存と死亡の,有意な群間の差を示す79歳時の指標は,BMIと「身体的自立」であった.

千葉調査:2011年~2014年までの健診で,体力測定を受けたものは190名であり,このうち48名が初回から4年後以降も測定を受けていた.初回体力測定で握力が基準を満たさなかった(A群)男性は3名(握力平均値23.1±標準偏差3.2kg平均年齢81.3±4.7歳)女性5名(16.5±3.0kg平均年齢78.2±7.1歳),基準を満たした(B群)男性は16名(37.4±4.8kg平均年齢72.6±5.0歳)女性24名(24.2±3.1kg平均年齢72.7±4.5歳)であった.4年後に基準値を超える変化のあったものは,A群1名B群5名であった.A群の4年後握力の変化は-0.49±1.11kg,B群は-1.34±0.50kgであり,A群の4年後歩行速度の変化は+0.10±0.17m/s,B群は+0.04±0.08m/sであった.群間の変化量に有意な差はみられなかった.

(考察)

 握力のみを指標としたプレフレイル高齢者の選定であったが,4年間の健康教室参加によりプレフレイルから回復したものは8名中1名であり,悪化したものは40名中5名の同率であった.しかし,プレフレイル・健常の両群とも歩行速度は増加しており,健康教室への継続的な参加は,プレフレイル高齢者においても特に脚力に有効であることが示唆された.今回の調査では,79歳以降の生存・死亡群の比較おいて,社会的役割に有意な差がみられず,「手段的自立」に差がみられた.社会性の,生命維持への影響は身体機能ほど大きくないことが推測された.今後,「フレイル」状態への影響について解析する.

学会発表

・第74回日本体力医学会 2019年9月20日筑波

・2020 ACSM’s Annual Meeting Web. 2020 5月

・第75回日本体力医学会 2020年9月25日予定

・2021 ACSM’s Annual Meeting 予定

(倫理規定)

 本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施された(承認番号2019-6).

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