千葉県立保健医療大学紀要
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第11回共同研究発表会(2020.9.7~9.11)
ICU熟練看護師による重症患者に対するコンフォートケア
田口 智恵美佐藤 まゆみ
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2021 年 12 巻 1 号 p. 1_101

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抄録

(緒言)

 コンフォートには,「楽である」という意味のほか,「体が心地よい」「心が静かである」「つながりを感じている」「今が楽しい」1)という意味が含まれる.また急性期看護領域では「回復がもたらされる」「耐える力をもたらす」などのケアの効果2)といった意味も含む.重症患者は侵襲的治療や日常からの隔離等により全人的苦痛を体験しており,コンフォートに対するニーズは極めて高く,コンフォートの概念を取り入れたクリティカルケアの実施が推奨3)4)されている.しかし一方で,クリティカルケア領域に特徴的なコンフォートケアは明らかにされていない.

 本研究では,ICU熟練看護師が重症患者に対し日頃の実践の中で行っているコンフォートケアの実際を明らかにすることを目的とした.

 なお,本研究では,コンフォートケアとは,上述したコンフォートの意味や効果を期待して看護師が臨床で行う判断と行動とした.

(研究方法)

 ICU看護経験5年以上の看護師を対象に半構成的面接調査を実施した.収集した全データを逐語録にした後,重症患者に対するコンフォートケアに関する記述を抽出しコードを作成し,同じ意味のコードを集めてカテゴリー化した.

(結果)

1.対象者の属性( )内は平均を示す.

 研究参加者は女性8名で,年齢28~50歳(40歳),ICU経験年数6~12年(9年)であった.

2.ICU熟練看護師によるコンフォートケア

 ICU熟練看護師による重症患者へのコンフォートケアとして,コード157,サブカテゴリー98,カテゴリー24,大カテゴリー8が得られた.大カテゴリー【 】,カテゴリー〈 〉で表す.

 【気力の回復】には〈生きる気力の回復に努める〉〈エネルギーの消耗を調整する〉を含む.【苦痛の緩和】には〈患者が体験している辛さを理解する〉〈納得することで苦痛を伴う処置に耐えられるようにする〉,他2を含む.【安楽の提供】には〈安楽な体位を探索する〉〈快を感じられるケアを意識する〉を含む.【状態悪化の予防】には〈新たな健康障害に警戒する〉〈循環動態の変動を回避する〉,他1を含む.【回復プロセス支援】には,〈状況の理解を促す〉〈患者に無理をさせない回復プロセスを意識する〉〈回復プロセスで生じる困難感の軽減を図る〉,他5を含む.【人と関わりのある日常の維持】には〈自然な日常のコミュニケーションが在る〉〈家族のサポートを得られるよう調整を図る〉を含む.【ICU環境のストレスへの対処】には〈ICUの環境による弊害を軽減し夜間睡眠につとめる〉,他1を含む.【終末期QOL向上への支援】には〈本人が希望する終末期を過ごせるよう支える〉を含む.

(考察)

 ICU熟練看護師の重症患者に対するコンフォートケアのテーマには【気力の回復】【苦痛の緩和】【人と関わりのある日常の維持】等が含まれ,精神的,身体的,社会的な多方面からケアが行われていることが明らかであり,ICU熟練看護師が全人的に患者をケアしていることを示すと考える.生死に関わる場所だからこそ生きる気力の回復に努め,回避できない苦痛があるからこそ納得して処置を受けられるようにし,社会から隔絶されているからこそ人との関わりを感じられるようにしていると考えられる.これらは重症患者だからこそのコンフォートでない状態への看護師の判断と行動であり,クリティカルケア領域に特徴的なコンフォートケアと考える.

(倫理規定)

 千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を受けた(承認番号:2019-10).

(利益相反)

 開示すべきCOIはない.

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