千葉県立保健医療大学紀要
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第11回共同研究発表会(2020.9.7~9.11)
万能型看護実習モデルを用いた口腔健康管理における医療安全教育の検証
酒巻 裕之麻賀 多美代
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2021 年 12 巻 1 号 p. 1_102

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抄録

(緒言)

 医療や福祉を提供する場において,インシデントの発生を予防するとともに,インシデントが発生したら,その影響が最小限となるように対処することが重要である.安全な医療を提供するために,個人の知識や技術をシミュレーション学習と実臨床の学習の中で修得し,その習得した知識や技術を強化・向上させるために生涯にわたって研鑽し続けなければならない 1).また,起りうるリスクを予知して,そのリスクを取り除く対応を学ぶ手法に「危険予知トレーニング(KYT)」がある.

 医療安全教育について,当学科の講義ではインシデント発生時の事象は各歯科診療の偶発症として,またインシデントの影響を最小限にする対処法については救命救急処置等,それぞれ個別の科目で学び,歯科診療室等の臨床実習でもその実際を学ぶことは少ない状況である.

 そこで本研究では,歯科衛生士が医療を受ける対象者に医療安全を考慮した適切な口腔健康管理を行えるようになることを目標に,万能型看護実習モデルを用いた口腔健康管理のロールプレイを行いながらKYT(シミュレーションKYT)を行った.その終了後に学生対象にした質問紙調査結果から本医療安全教育の検証を行った.

(研究方法)

令和元年度歯科衛生学科3年生24名のうち,研究協力の同意を得られた者を研究対象とした.「歯科診療室総合実習」の課題学習で,学生を2班に分け,各班2時限(180分間)の演習として行った.対象学生は病院実習やKYTの経験がないことから,1限目に1組4~5名グループで,杉山らが示した危険予知トレーニングテキストからシミュレーションKYTに関連するイラストの1場面を選択した2).進行は担当教員が行い,KYT終了後に成果を発表した.

 次いでシミュレーションKYTは,病棟のベッド上で,血圧,心電図,経皮的動脈血酸素飽和度のモニタリング,静脈内持続点滴中の状況の万能型看護実習モデル「八重」(京都科学,京都)に口腔衛生管理を行うために体位を調整する場面を設定し,KYTを実施した.進行は学生が行い,モデルを動かしながら検討し,検討後に学生間で振返りを行った.演習後の質問紙調査では,学生の自己省察を深める質問項目を設定し,回答を得た2)

(結果)

 対象者23名(95.8%)から回答を得た.5肢選択式質問項目で,「全く当てはまる」「当てはまる」を肯定的意見とすると,シミュレーションKYTのステップ「現状把握」「本質研究」「対策確立」で91.3%以上,「目標設定」「振返り」で100.0%の肯定的な結果を得た.自己省察では,「シミュレーション上で起こりうるインシデントを表現でき,発生しそうなインシデントについて,またその対応策について考えることができた」などの肯定的な記述がみられた.一方,「自分の最も不満足な成果」では,「実際の症例の体験がない分野で,専門的知識が少なく,想像するのが難しかった」等の記述が見られた.

(考 察)

 本研究ではSimulate one(シミュレーションで疑似体験をして)において,インシデントを発生する行動をとった際に生じる現象を観察することから,実臨床では未経験の事例においても具体的にReflect one(振返って)を行うことができていた.

 医療の場を設定した万能型看護実習モデルに口腔健康管理を行う際のKYTを実施し,教育効果について,演習後の学生を対象とした質問紙調査結果から検討した.本KYTでは,医療の場の経験がない学生がモデルに対して実際に処置をして生じうるインシデントを確認することができた.またKYTの各段階においてもモデルを前にした検討で検討しやすい肯定的な回答を得たことから,シミュレーションKYTは,学生の知識修得時期に応じて実施により効果的な学びができる可能性があると推測された.

(倫理規定)

 本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認(2019-19)を得て行われた.

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