千葉県立保健医療大学紀要
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第11回共同研究発表会(2020.9.7~9.11)
終末期,ターミナルケアに関わる歯科衛生士の体験に関する質的研究
山中 紗都吉田 直美佐藤 まゆみ
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2021 年 12 巻 1 号 p. 1_110

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抄録

(緒言)

 終末期における歯科医療の需要が高まり,口腔健康管理の効果や必要性について広く知られ,地域における多職種連携医療の一員として歯科衛生士が在宅歯科医療や緩和ケアに携わる機会が増加している.しかし,終末期の患者に関わり,看取りに遭遇する歯科衛生士の数は多くないため,研究報告はもとより,教育や研修の中で終末期医療や死生観を学ぶ機会も少ない.患者の死を看取ることは,究極の感情労働といわれるが,それぞれの歯科衛生士が独自に対応していると考えられる.本研究では,終末期医療の現場で働く歯科衛生士より,これまでの経験についてインタビューを行い,歯科衛生介入の実際や,患者との別れの経験について,また,終末期における歯科医療に関わる困難や悩み,やりがいについて明らかにすることを目的とした.

(研究方法)

1.対象

 担当患者の死を経験したことのある,訪問歯科診療,病院における緩和ケア等に従事する歯科衛生士

2.方法

 同意を得られた対象者に,歯科衛生介入の内容をはじめ,初めて担当患者が亡くなった時の気持ち,患者の死の経験を積む中での変化,現在の業務において困難と感じることややりがい,患者家族との関わりについて半構造化面接を実施した.

3.分析方法

 インタビューで得られたデータを質的記述的に分析した.逐語録を作成し,質問項目ごとに,意味内容ごとに区切ってコード化し,類似したコードをまとめ,カテゴリー名を付した.

(結果)

 訪問歯科診療に従事する7名,総合病院の口腔外科に勤務する1名,合計8名の歯科衛生士より協力を得た.対象者の平均年齢は平均53.0±7.0歳で,終末期における歯科医療に従事している経験年数は6.4±4.8年だった.全ての対象者が過去もしくは現在においても歯科診療所勤務を経験していた.歯科衛生介入の内容は,口腔ケアに留まらず,機能訓練,食事指導,時には患者の死後に口腔清掃を行うエンゼルケアなど多岐に渡った.初めて担当患者が亡くした時の気持ちは,「ショック」「悲しみ」「後悔」などに分類でき,患者の死の経験を積む中で変化したこととして,「死を迎える気持ちの準備ができるようになる」や,「自分が患者へ出来たことへ目を向けられるようになる」などが挙げられた.現在の業務において困難と感じることとしては,患者と患者家族の間における意識の差または,患者および患者家族と介入者である自身の意識の違いによる「介入の難しさ」や「多職種連携」などがあげられた.一方でやりがいとして「介入の効果がでること」や「患者・家族からの感謝の意を述べられること」「穏やかに最期が迎えられる手伝いができる」等が挙げられた.患者家族との関りについては「患者のみならずケアの対象である」ことや「家族の思いを尊重」することを意識していることが分かった.

(考察)

 終末期に関わる歯科衛生士は患者の死を初めて経験した際にマイナスな感情を抱くことが多いが,経験を重ねる中で患者の死期がある程度予測が出来るようになるため,患者,患者家族,そして自身にとって納得が出来る最期を迎えられるようになるという変化がみられた.一方で,患者の死を受け入れられる様になるまでは,時間を要したり,周りへサポートを求めたりと,それぞれが悩みながら対応していることも聞き取ることができた.

 終末期における歯科医療の需要が高まる今日において,今後歯科衛生介入における技術的側面だけではなく,患者の「死」と向き合うことへの精神的側面へのサポートや教育が必要であることが考えられた.

(倫理規定)

 研究本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号2018-19).

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