2021 年 12 巻 1 号 p. 1_111
(緒言)
ヒトの歩行は一定の周期性を持って成立することは知られており,歩行周期性の“不規則性”が抑制されている.しかし高齢になるに連れて顕在化し,歩行時の転倒などを発生させると考えられている.これは自己相似性が低下し,歩行の不安定性さ助長するか否かであり,運動の不規則性から研究したものはない.本研究は,歩行時のリズムのズレが転倒リスクを高めるものと仮定し,歩行能力身体機能が転倒要因になるか研究するものである.
(研究方法)
測定課題は頸部(第7頸椎)に15gの加速度センサーを貼付し,1辺15mの正方形外周を被験者の快適歩行速度で6分間歩行し,歩行リズムの加速度信号ピーク値を抽出するものである.併せて第2仙椎部に加速度センサーを貼付し,歩行速度(m/s),ストライド長(m),ケーデンス(歩数/分)や歩行距離(m)の歩行能力と,足趾把持力(kg)と片脚立位(sec)の運動機能も併せて測定した.
対象は平成30年前から週5回,30分以上散歩を行い,運動指導士等の下で運動を行っている高齢者を含め,転倒経験のない平均年齢73.6±4.6歳の43名(男:女=26:17)とした.
分析方法は歩行における鉛直方向加速度信号のピーク値を距離換算し,ピーク値の時間をモノ・フラクタル解析の分析値(Detrended Fluctuation Analysis; DFA)を行った.仙骨部に貼付した加速度信号ピーク値と床-大腿骨大転子までの下肢長(cm)から,歩行速度(m/s),ストライド長(m),ケーデンス(歩数/分)や歩行距離(m)を算出した.また足趾把持力(kg)と片脚立位(sec)は左右の最大値を測定した.
DFA,頸部の上下動などから相関を求めた.平成30年でデータ欠損のない33名を追跡した.なお有意水準は5%とした.
(結果)
DFA分析値は0.45±0.1(0.29~0.59)と自己相似性があることが認められた.しかし鉛直方向(cm),ストライド長(m),ケーデンス(歩数/分)や歩行距離(m),および足趾把持力(kg)や片脚立位(sec)で左右の最大値との間に関連性は認められなかった.
第7頸部に貼付した加速度センサーによる鉛直方向の移動距離(cm)は2.9±0.1(1.6~5.0)であった.歩行速度1.7±0.2,ストライド長1.6±0.2,歩行距離495.2±62.1との間で相関が認められた(p<0.01).しかし足趾把持力と片脚立位の運動機能との間に関連はみられなかった.
追跡調査において,DFAは0.47±0.1から0.45±0.1と数値に差がなかった.鉛直方向の移動距離は2.8±0.7から2.9±0.8,歩行速度は1.74±0.2から1.70±0.2とともに低下は認められなかった.ケーデンスは127.7±9.1から128.7±9.1と差がなかった.ストライド長は1.63±0.2から1.59±0.2,歩行距離は512.8±71.3から495.2±62.1と明らかな差は認められなかったものの,短くなっていた.
(考察)
Burkeら1, 2)の研究で歩行リズムを構成する中脳歩行誘発野(mesencephalic locomotor region; MLR)から小脳,大脳基底核,延髄毛様体,そして脊髄の歩行パターン発生器(locomotor Pattern Generator; LPG)が歩行に関与することが知られている.しかし本研究から,歩行リズムの低下をDFAでとらえることの可能性は低いと考えられた.また歩行時の鉛直方向の加速度信号から歩行速度,ストライド長,歩行距離と関連性が高いことが明らかになった.
(倫理規定)
本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理委員会の審査を受け,承認されて実施された(承認番号:2018-10).
(利益相反)
本研究は,公益財団法人 三井住友海上火災助成研究を受けて行ったものである.