2021 年 12 巻 1 号 p. 1_112
(緒言)
近年,地域における看護職の活動が注目されている.看護職の地域での活動は「開業ナース」や「起業看護師」等,様々な呼び名があり,活動内容は多種多様で専門性も広範囲に及ぶ.しかし,その定義や概念は未だ存在しない.本研究の目的は,看護職による地域活動に関して,文献検討や事例分析から概念整理を行い,定義化することである.
(研究方法)
本概念の分析には,Rodgers&Knafl(2000)のアプローチを使用した.
データ収集:医中誌,CiNiiWebを用いて「看護師」「開業」「起業」をキーワードに文献を検索した.検索条件は,原著論文,解説とし,座談会は除外した.その結果,37件の文献(原著1件,解説36件)が抽出された.また,2018年度学長裁量研究費にて調査を実施した看護職による地域活動の3事例を追加し,合計40件を対象とした.
分析方法:文献・事例ごとにコーディングシートを作成し,概念を構成する属性,先行要件,帰結等に関する記述を抽出し分類した.コード化したデータの共通性と相違性を考慮しカテゴリー化した.分析の妥当性確保については,地域看護学の専門家によるスーパーバイズを受けた.
(結果)
1.属性
4つのカテゴリーと12のサブカテゴリーが抽出された.カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを「」で示した.【専門知識と技術を直接届ける】は「必要なときに必要なケアを提供する」「往診医のいない集落で看取りを行う」等で構成された.【医療と生活を結びつける】は「看護の力を生活に応じて直接活かす」「退院後の家族の在り方を考える」等であった.【地域のネットワークを形成する】は「組織の枠を超えて活動する」「多様なスタッフが快適に働く」等であった.【経営力を高める】は「看護に付加価値をつけて対価を得る」「行政書士を味方にする」等であった.
2.先行要件
2つのカテゴリーと5のサブカテゴリーが抽出された.【地域での自分らしい生活】は「疾病や障害を抱えながらも在宅で自分らしい生活が維持できる」「最期までいきる力を住み慣れた地域で支える」で構成された.【健康的なまちづくり】は「まちの中に心がほっとできる居場所を作る」「地域で安心して生活ができる」「地域の子育て支援政策に寄与する」で構成された.
3.帰結
3つのカテゴリーと9のサブカテゴリーが抽出された.【自己実現する】は「自分のやりたい看護を実現する」「自由に仕事をする」「リスクを背負い生きがいを支援する」で構成された.【地域に根差す】は「地域の看護資源となる」「地域の特性を取り入れる」「地域に貢献する」であった.【看護の機能を広げる】は「したいことをどんどんできるステーションを作る」「理想と考える看護の形を実現する」「得意なこと好きなことに取り組む」であった.
(考察)
1.本概念の定義
Rodgers&Knaflの概念分析の結果,本研究では看護職による地域活動を「自分らしく生活ができる健康的なまちづくりを目指した,看護の専門知識と技術を直接届ける活動」と定義する.活動には医療と生活を結びつけ,地域のネットワークを形成し,経営力を高める活動が含まれる.活動は「したいこと」「理想と考えること」「得意なこと」により看護の機能を多様化し,看護資源として地域に根差す.これら一連の活動は看護師自身の自己実現を叶える場であり,次の活動への原動力になりえると考える.
2.今後の課題
本研究の対象となる看護職の関連概念として,「コミュニティナース」「メッセンジャーナース」「ルーラルナース」「暮らしの保健室」等がある.この中には近年,発展してきた概念もあり,それぞれの概念の明確化や体系化はまだ行われていない.今後,地域で活躍する看護職は益々増加すると考える.これらの概念を整理・体系化することで看護職の地域活動に貢献したい.
(利益相反)
本研究に係る開示すべき利益相反はない.