千葉県立保健医療大学紀要
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令和元年度学長裁量研究抄録
口腔機能低下症の現状と啓発についての検討
鈴鹿 祐子麻生 智子河野 舞酒巻 裕之麻賀 多美代大川 由一
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2021 年 12 巻 1 号 p. 1_114

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抄録

(緒言)

 2018年4月の診療報酬改定において,「口腔機能低下症」は正式な病名として認められた.口腔機能低下症は,進行すると咀嚼機能不全,摂食嚥下障害によって全身的な健康を損なうと言われている.また,口腔機能低下症の罹患率は,50歳代で約50%との報告があることから,成人期から口腔機能低下症を予防するために,口腔リテラシーの向上を図るアプローチが必要になる.

 そこで本研究は,成人に対して,歯科専門職が口腔機能低下症の評価を実施し,対象者に評価結果と結果に基づいた個別のアドバイスを行うことで,対象者の口腔機能低下症の理解や口腔保健行動に与える影響について把握し,歯科衛生士として口腔機能低下症を予防する啓発方法やサポート方法を検討することを目的とした.

(研究方法)

 C大学歯科診療室に来院した成人に対し,対象者募集のチラシを配布,併せて歯科診療室の待合室に対象者募集のポスターを掲示し,対象者を募った.調査手順は,研究の説明・同意,質問紙調査,口腔機能低下症についての評価,結果の説明とアドバイスである.その後,結果については書面化し郵送した.評価から1ヶ月後に郵送にて再度,質問紙調査を行った.口腔機能低下症についての評価は,「口腔機能低下症に関する基本的な考え方」(平成30年3月 日本歯科医学会)の診断基準に従い,7項(①口腔衛生状態,②口腔粘膜湿潤度,③咬合力,④舌口唇運動機能,⑤舌圧,⑥咀嚼機能,⑦嚥下機能)について行い3項以上該当する場合に口腔機能低下症と評価した.質問紙調査からは,口腔保健行動に関すること,口腔機能低下症に関すること,要望や感想の回答を得た.

(結果)

 分析対象は30名(69.4±9.02歳)であり,口腔機能低下症と評価された者は4名(13.3%)であった.検査項目別では,舌口唇運動機能低下10名(33.3%)が最も多く,次に咬合力低下9名(30.0%),低舌圧8名(26.7%)の順であった.介入前の質問紙調査は,「あてはまる」,「少しあてはまる」と回答した割合が高い質問は「歯周病の予防に関心がある」(100%),「日頃,歯や口の健康に関心がある」(100%)であり,次いで「夜,寝る前に歯をみがく」(96.7%),「口の機能について関心がある」(96.7%),「かかりつけ歯科医院がある」(93.3%),であった.介入前後で比較すると,「口腔機能低下症を知っている」が36.7%から83.4%に,「オーラルフレイルを知っている」20.0%から50%に「口を使った体操をしている」は40.0%から50.0%増加した.

 一方,歯周病,う蝕の予防への関心度は減少した.

 対象者の感想には,「口腔についていろいろ(知識不足)気づいた」,「また検査,指導をしてほしい」,「友人達にも話して皆で関心を持った」などが挙げられた一方,「周りの人にもおすすめしているが難しい」もあった.

(考察)

 本調査の対象者は,日頃より口腔や健康に関心があり,かかりつけ歯科医を持ち,口腔衛生状態が良いことから,比較的,口腔機能低下症と評価された者が少なかったと思われた.

 対象者は自身の口腔状態を知り口腔機能低下症を認知したと考えられ,口腔保健に対する行動変容は見られたものの,改善が必要のある項目もあり,今後の課題となった.

 一方,対象者の感想からは,対象者自身の口腔への気づきや関心,口腔機能低下症を防ぎたいなど前向きな思いがあったことからも,今回の参加は啓発の効果があったことが示唆された.

 今後は口腔機能低下症を理解してもらう啓発方法として集団での教室や指導を取り入れたいと考える.

(倫理規定)

 対象者に,研究目的と方法ならびに,研究参加への自由意思,個人情報は保護されることなどを口頭ならびに文書を用いて説明した上で同意書への署名を得た.

 本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認(申請番号2019-12)を得て実施した.

(利益相反)

 本論文発表内容に関連して申告すべきCOI状態はない.

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