千葉県立保健医療大学紀要
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令和元年度学長裁量研究抄録
認知症の人を対象とした看護・介護・リハビリテーション領域の研究における倫理的配慮のためのガイドの開発
佐伯 恭子諏訪 さゆり
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2021 年 12 巻 1 号 p. 1_115

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抄録

(緒言)

 高齢者の増加とともに認知症の人も増えている.認知症の予防や治療のためには薬物療法だけでなく非薬物療法も必要であり,看護・介護・リハビリテーション領域の研究も推進していく必要がある.

 しかし,研究において最も重要な被検者保護の観点でみると,認知症の人は意思決定できないとみなされ意向を尊重されない事態が生じる可能性がある.認知症の人対象の介入研究に関する原著論文43件をもとにした文献研究では,本人がICに関与しなかった可能性のあるものが13件みとめられた1).また,認知症の人を対象とした研究の倫理審査を経験した倫理審査委員へのインタビュー調査では,認知症の人を対象としているにもかかわらず代諾に関する記載がない計画書の存在などが明らかになっている2)

 そこで,本研究では,認知症の人を対象とした看護・介護・リハビリテーション領域の研究における倫理的配慮について,研究倫理に関する基本的な考え方を理解したうえで,その方策を考えることのできるガイドの開発を目指した.

(研究方法)

1.ガイド案の作成

 昨年度実施したインタビュー調査(対象者は,研究者,研究倫理審査委員,研究協力者,認知症の人を介護する家族)より,認知症の人を対象とした研究における倫理的配慮に関する実践知を抽出した.その結果,人格の尊重に該当するICに関しては〈意思決定能力の評価〉など7項目,善行に該当するリスク・ベネフィットに関しては〈リスクへの対応策の具体化〉など4項目,正義に該当する対象者選定に関しては〈対象者のリクルート方法の適切性〉など2項目,その他,倫理審査と科学的合理性に関する実践知が明らかになった.これら実践知の要素が含まれるようにガイド案の文章を作成し,研究倫理の三原則を枠組みとしたガイド案を作成した.

2.インタビュー調査

 作成したガイド案の妥当性及び実用性を高めるため,認知症の人(A氏:アルツハイマー型認知症/B氏:レビー小体型認知症)を対象とした個別インタビューと,専門職および倫理審査委員を対象としたグループインタビュー(研究者1名/研究協力者1名/研究倫理審査委員1名:計3名)を実施した.

(結果)

 ここでは,ガイド完成までの過程を示す.

 ガイド案を基に,認知症の人(A氏)にインタビューを実施した.A氏からは主に,認知症の人とのコミュニケーションの中で“本人に聞いて確認する”ことの重要性に関する指摘があり,これを反映してガイドVer.1を作成した.次に,ガイドVer.1を基にグループインタビューを実施した.グループインタビューでは主に,活用の際の実用性に関する指摘があり,これを反映してガイドVer.2を作成した.最後に,ガイドVer.2を基に認知症の人(B氏)にインタビューを実施した.B氏からは主に,認知症の人であっても一人の人間として接するのは認知症ではない人と同じであることの指摘があり,これを反映して修正し,ガイドの完成とした.

(考察)

 本研究で作成したガイドは,研究倫理の三原則に科学的合理性を加えての構成となった.ガイドの内容は,研究が倫理的であるための7要件3)を網羅している.今後,本ガイドの有効性を検証していく必要がある.

(倫理規定)

 本研究は,千葉大学大学院看護学研究科倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:31-18).

(利益相反)

 本研究において開示すべきCOIは存在しない.

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