2021 年 12 巻 1 号 p. 1_120
(緒言)
英語によるコミュニケーション能力の育成は小学校からの英語教育の義務化により加速されている.しかし一方で「易しい日本語」すなわち,わかりやすい日本語を,母語を英語としない日本在留外国人に対して使う可能性も注目されている.共通言語として何を使用するのが良いのか考察する.
(研究方法)
日本における本研究テーマに係る意識について考察をするため関連文献のレビューを行った.また,1年生の英語の授業で,そうした文献の中から英語で書かれたものを用い共通言語として何を使えばよいかグループワークを行った.何語を有効とするかの理由はSPSS Text Analytics for Surveysを使い,使われた語彙の結びつきの度合いを調べた.
(結果)
文献では,法務省のHPにあるように,令和元年度末の在留外国人数が293万人におよび前年度からの増加率が過去最高を記録していた.小学校からの英語教育も義務化され,英語はこうした加速するグローバル化社会における共通言語とみなされてきた.
2011年に発生した東日本大震災では,津波が押し寄せた東北地方の在留外国人の言語は50を超えていたと報告されている(鳥飼,2016).この時には阪神淡路大震災の教訓から,情報伝達は主に日本語にプラスして英語でも行われたが,どちらも母語でない人々は主にSNSを使い母国から母語によって日本でおきている情報を得たと報告されている(Duncan, 2013).一方,易しい日本語の可能性についても研究が進められている(岩田,2010).Duncan(2013)の抜粋を一年生の英語コミュニケーション授業で用い,授業の一環として,コミュニケーションをとる言語についてグループ・ディスカッションを行った.英語を共通言語という学生が半数であったが,易しい日本語や,多言語を自分たちで学ぶ必要性にも言及があった.理由に書かれた語彙からは,英語という単語と世界・言語という単語とのつながりが太い事がわかった.また,易しい日本語という単語にはジェスチャーという単語の結びつきが見られた.非言語コミュニケーションであるジェスチャーを,学生たちは有効なコミュニケーション手段の一つとして日本語の使用と共に挙げていた事が判明した.
(考察)
政府の多言語に対しての対応が必要である事に加え,日本社会全体として多言語に対しての理解を進める事の必要性がある一方で,いわゆる縦割りの研究として進められている,英語教育や日本語教育の研究結果共有も求められる.また,学生たちのコミュニケーション観として挙がった非言語コミュニケーションの可能性などの意見や専門家の知識を包括しアウトプットする必要性が示唆された.
(倫理規定)
研究は倫理審査を受ける内容は伴わなかった.
(利益相反)
開示すべきCOI関係にある企業等はない.