千葉県立保健医療大学紀要
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第11回共同研究発表会(2020.9.7~9.11)
トラウマにより生きにくさを抱えた人を地域で支援する援助者の体験と教育支援ニーズ
加藤 隆子渡辺 純一渡辺 尚子齋藤 直美
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2021 年 12 巻 1 号 p. 1_97

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抄録

(緒言)

 これまで私たちは,精神科病棟に勤務する看護師を対象に,トラウマにより生きにくさを抱えた患者に対する看護支援に関する研究を進めてきた.患者の支援は入院中だけではなく,地域での継続した支援が重要である.そこで本研究では地域で生活しているトラウマにより生きにくさを抱えている人への支援経験のある援助者の体験を明らかにし,課題や教育支援ニーズを検討することを目的とした.

(研究方法)

研究対象者:トラウマにより生きにくさを抱えている 人を地域で支援している援助者

調査期間:2019年6月~2020年3月

調査方法:半構成インタビューによる質的研究方法.トラウマにより生きにくさを抱えている人を地域で支援している多職種を対象にインタビューを行い,逐語録におこした.インタビューは一人につき1~2回45~90分行った.インタビューでは,トラウマにより生きにくさを抱えている人(以下,利用者)への支援経験について,印象に残っている場面を取り上げ,その時の感情や思考,行動,配慮していたことを中心に語ってもらった.

分析方法:支援経験に関連した体験について,生じた感情や思考,行動についての語りを質的に分析しカテゴリー化した.

(結果)

 調査対象施設は,関東と関西圏内の4施設で,研究参加者は10名(看護師4名,作業療法士2名,心理士2名,精神保健福祉士1名,臨床傾聴士1名),女性6名,男性4名,平均年齢は,48.9歳であった.

 分析の結果,多職種に共通して体験している支援として以下のことが明らかになった.援助者は,支援を通して,利用者主体の関係性作りと安心で安全な環境を提供することを心掛けていた.そして,現在の病状の改善に向けた支援,日々の生活を当たり前に送れるよう今を積み重ねることに着目した支援を行っていた.その中で,援助者はトラウマの問題を扱うことの困難感を抱いていた.具体的にはトラウマへの理解が十分ではない場合には,トラウマを扱うことへの恐れや不安を生じていた.また,援助者は利用者対応から生じるストレス,援助者として関わりをふり返る機会が少ないなどの困難も抱いていた.さらに利用者との関わりを通して自己理解が進み,援助者の持ち味を生かした支援を行うことや利用者と適度な距離感を保つこと,独自の専門性の限界を補い合うことで,援助者の体験に変化がみられていた.援助者は利用者の逆境体験やそこからくる生きにくさを知り,利用者への理解が深まり支援の姿勢が変容し,トラウマからの回復を意識化できる支援を行っていた.このような関わりで,援助者は利用者との関係性の深化と手応えを感じていた.

(考察)

 日々の生活を当たり前に送ることに着目して支援することは,地域で生活を支える援助者の特徴であった.そして,利用者の成育歴など背景への理解や自己理解を深めることは,効果的な支援の姿勢につながっていた.しかしながら,援助者は利用者との関わりの中でトラウマの問題を扱うことへの困難を感じており,トラウマの基本的な理解とともに,介入のタイミングや方法についての教育支援の必要性が示唆された.また,援助者のストレスや自己の関わりをふり返る機会が少ないという結果から,援助者へのサポートシステムの検討が課題である.

(倫理規定)

 千葉県立保健医療大学の研究等倫理審査委員会(2019-02)の承認を得て実施した.調査対象施設と研究参加者には,文書と口頭で研究の目的,方法,守秘義務,研究参加の任意性,途中辞退の権利,辞退した場合でも不利益を被らないこと,研究結果の公表について説明し同意書によって同意を得て実施した.

(利益相反)

 発表内容に関連して申告すべきCOI状態はない.

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