千葉県立保健医療大学紀要
Online ISSN : 2433-5533
Print ISSN : 1884-9326
令和2年度学長裁量研究抄録
新人保健師のリフレクション力育成のためのファシリテーションガイドの開発
-批判的分析に資する「自己の考えの意識化」を意図するガイド項目の使用状況と影響-
雨宮 有子佐藤 紀子細谷 紀子杉本 健太郎
著者情報
研究報告書・技術報告書 フリー

2023 年 14 巻 1 号 p. 1_105

詳細
抄録

(緒言)

 我々は,新人保健師がリフレクション力を身に付けることが現任教育上の重要なニーズであることを見出し,2014年から「新任期保健師リフレクション力育成プログラム」(以下プログラム)を実施してきた.2019年には,プログラムにおいて効果的なファシリテーションを導くガイド(以下ガイド)案を,先行研究を基に作成し導入した結果,リフレクションに必要なスキルの一つである「批判的分析」を進めるための「自己の考えの意識化」が課題と考えられた.ここでは,批判的分析に資する「自己の考えの意識化」を意図するガイド案項目の使用状況と,その影響を明らかにしガイド案改良への示唆を得る.

(研究方法)

1.プログラム内容:地方自治体へ就職後3年未満の保健師を対象に,ガイド案を用いたプログラムを実施した.プログラムでは2か月毎に3回,気になっている個別支援について事前にワークシートに記述した上で,ファシリテーターを含め4~6名でグループ・リフレクションを行った.

2.ガイド案:6つの柱で構成した.その内1つを「リフレクション促進のための具体的な進め方・問いかけ」として,批判的分析を促進するための項目5つを位置づけた.その中に,自己の考えの意識化を意図する項目「何が,このような影響や状況を起こしたと思いますか」(以下,考え意識化項目)を含めた.ガイド案はグループ・リフレクションで使用することとし,「リフレクション促進のための具体的な進め方・問いかけ」の部分は初回に参加者にも共有し活用を促した.なお,「考え意識化項目」は,参加者が事前に記述するワークシートの項目に含まれている.

3.データ収集・分析:全回参加者のグループ・リフレクション内容の逐語録とワークシートにおいて,ファシリテーターが「考え意識化項目」を使用したと認識した部分及び参加者が自己の考えを意識化した部分を担当したファシリテーター自身が抽出した.そして,そこに至るプロセスを踏まえ「考え意識化項目」の使用状況と影響として整理した.

(結果)

1.「考え意識化項目」の使用回数

 ファシリテーターが「考え意識化項目」を使用したと認識した対象は,全回参加者6名の内5名だった.使用回数はファシリテーターにより1回から6回まで差があった.全体として回を追うごとに使用回数が増えていた.

2.「考え意識化項目」の使用状況と影響

 自己の考えを意識化した部分があった参加者は5名だった.参加者aは初回事前課題ワークシートに記載があった.参加者a・d・e・fは2又は3回目の事前課題ワークシートに記載があった.

 グループワークにおいて参加者が自己の考えを意識化した部分では,それに先行してファシリテーターが「考え意識化項目」を用いた発言と共に,参加者が発言した内容に関するティーチング(アセスメント視点や内容,具体的方法,状況判断等),意味づけ,又は参加者の変化・成長への承認・称賛を行っていた.また,状態や行為のみの発言に対し,その理由やそこからの学びを質問していた.「考え意識化項目」を意図しないティーチングも含まれた.

 一方で,ファシリテーターが「考え意識化項目」を使用したと認識していても,上段のティーチングや称賛等を行わず,参加者が発言していないことに関するファシリテーターの考えを単に述べている場合又はガイド項目をそのまま発言した場合には,参加者が考えを意識化した部分はなかった.

(考察)

 「自己の考えの意識化」を促進するために,グループ・リフレクションにおいて,ティーチングや称賛・承認等を先行させながら「考え意識化項目」を使用する機会を増やすことが必要と考えられた.ワークシートにおける「考え意識化項目」と合わせて効果を狙うことも有効と考えられた.これらの視点を包含したガイド案への改良が必要である.

(倫理規定)

 本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(2019-18).

 (利益相反)

 開示すべきCOI関係にある企業等はありません.

著者関連情報
© 2023 千葉県立保健医療大学
前の記事
feedback
Top