(緒言)
クリティカルケア看護師は,生命の危機に脅かされ非日常的な治療環境下で全人的苦痛を体験している患者をケアする.そのような臨床状況で看護師が人として情動反応を示すことは自然である.情動は理性だけに任せることのできない重大な局面において前面に出て人間の行動を導き1),初期の問題探索や問題の明確化を容易にしたり臨床状況の理解や行動を方向づけたりするなど,臨床判断に大きな役割を果たして看護行為を導いている2).
クリティカルケア看護師は実践の語りで情動反応を示す2)ものの,そのような状況下での臨床判断の特徴を明らかにした研究は見当たらず,臨床判断における情動の役割の全容は明らかでない.そこで,本研究では,臨床状況で情動を伴うクリティカルケア看護師の行動の様相を明らかにし,臨床判断における情動の役割を理解する一助とする.
(研究方法)
研究対象は2012年~2021年日本クリティカルケア看護学会誌収載の138文献のうち,クリティカルケア看護師の語りをデータとした質的研究とした.それらを精読し,臨床状況で情動を伴うクリティカルケア看護師の行動を含む記述を抜粋し質的帰納的に分析した.
(結果)
対象文献は14件であった.分析の結果,76のコードが得られ,51のサブカテゴリー,16のカテゴリー,9の大カテゴリーを抽出した.大カテゴリーを<>,カテゴリーを【 】で示す.
<ニーズを何とか把握しようとする>には【自分で訴えられない患者のニーズを何とか把握しようとする】【患者の言動に現れた個別のニーズを捉える】【本当の気持ちの表出を促す問いかけをする】が含まれた.<状況理解を促す関わりをする>には【現状を把握できるよう状況を伝える】【患者が見通しを持てるよう情報を提供する】が含まれた.<心身両面から患者の苦痛へのアプローチをする>には【苦痛を緩和することを念頭に置いてケアにのぞむ】【苦痛に耐える患者を精神的に支える】【患者の頑張りをねぎらう】が含まれた.<患者の健康状態の大事を見極め対応する>には【患者の大事には必ず対応することを保障する】【急変に警戒する体勢をとる】【回復に向かうケアを推進する】が含まれた.<患者と家族の関わりを促す>には【患者・家族間の関わりを促す】【患者と家族がともに過ごす時空を整える】が含まれた.<患者・家族の気持ちを医療の指標軸にする>には【提供される医療に患者・家族の意向が反映されるよう行動する】【患者・家族の立場から看護を評価する】が含まれた.<苦痛を連想させない外観に整える>には【傷が残らないようにケアする】【家族がショックを受けない外観に整える】が含まれた.<疲弊する家族に配慮した対応をする>には【家族の心身の疲弊に配慮した対応をする】が含まれた.<最善のケアに必要な力を充足しようとする>には【最善のケアに向け他職種の協力を得ようとする】【よりよい支援のために学習する】が含まれた.
(考察)
結臨床状況で情動を伴うクリティカルケア看護師の行動の様相は,患者・家族の苦痛を心身の両面から支え,患者と家族の関わりをよりよいものとし,患者・家族の立場で医療を評価し,最善のケアに向け必要な力を充足しようとするものであった.治療が優先されがちな状況下で,情動は患者・家族の心情を優先する医療へと傾倒させ,患者・家族が最善と思える医療を実現する原動力となる役割を果たすと考える.
(倫理的配慮)
データ元となった対象文献の出典を以下に明記する.誌名は全て「日本クリティカルケア看護学会誌」である.[出版年,巻数,号数,ページ]のみ示す.
[2021,vol.17, p44-51][2020,vol.16, p28-40, p54-64, p65-72][ 2019,vol.15, p44-52, p89-100, p101-111, p134-144 ][2018,vol.14, p77-85] [2016,vol.12, no3, p55-63][2015,vol.11, no.3, p57-65] [2015,vol.11, no.1, p31-40][2013,vol.9, no.1, p48-60] [2012,vol.8, no.1, p29-39] 以上14文献
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