抄録
企業は海外に進出する際には,多国籍企業論や国際経営などの分野で知見が蓄積されている参入に関する分析フレームワークを用いて現地国への参入を果たす。しかし,経営環境の変化などの影響から海外進出は分析通りにことが進むとは限らない。そこで必要なのが「戦略的撤退」である。経営陣は追い込まれた段階で海外市場から受動的に撤退するのではなく,あらかじめ撤退に関連するリスクを想定し,能動的に撤退を実施できれば,企業の持続的成長や競争優位につながると考える。そこで本研究は,この問題意識に基づいてまず多国籍企業が能動的撤退を可能にするために,参入前に想定できる「海外事業における撤退リスク」と海外市場参入後に想定すべき「撤退困難なリスク」などを明らかにする。次に,事業撤退を能動的なコンピタンスの再構成(知識ベースの能動的撤退)と見なし,海外事業における戦略的撤退プロセスを考察する。
以上,リスクマネジメントの視点から参入前と参入後に想定できる事業撤退リスクと,事業撤退の意思決定後に生じるリスクを明らかにすることによって,企業はグローバル市場において環境変化に柔軟に対応する能動的な事業撤退が可能となるであろう。