抄録
約2,500年前の孫子は,組織が危機的環境で自らの存続を確実にすべく行動し,真の目的を追求する透徹した思考と論理が,古典の枠を超え,今日の企業価値の最大化を目指す経営学の理念,統率原理,経営原則に通じる企業経営の要諦と見られてきた。
本稿は,藤塚,森(1943)により「孫子の組織」として研究された,組織の存続を確実にする普遍的法則と経世の複雑な利害衝突を解決する,孫子13篇の知的枠組みを論考する。第2作戦篇と第12火攻篇を結合して読み進め,相互の脈絡と意味をより深く理解する論理構造を「孫子の組織」と呼び,仮説「第7軍争篇を中心に対称配置された各篇に呼応関係が存在し,孫子全体の重層的脈絡と循環的推論の意味が通じ,全貌が浮かび上がる構造がある」を検証する。
本研究は「孫子の組織」を安全保障,大規模自然災害や感染症防護など危機的環境で,国家や民間企業
の危機管理の一般理論の発展と仮説構築に役立てることを目的とする。