抄録
がん細胞に結合する抗体に、細胞毒性を有する薬物を結合させた抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate:ADC)は、選択的かつ効果的にがん細胞を死滅させるとともに、全身毒性軽減が期待される次世代抗体医薬品である。第一三共では独自技術の研究を進め、DNAトポイソメラーゼI阻害剤エキサテカンの新規誘導体を薬物本体とする薬物リンカー技術を確立した。本技術は先行技術に比べ高比率かつ均一に薬物を抗体に結合させることが可能、バイスタンダー効果に基づく強力な抗腫瘍活性を発揮、リンカーの高い安定性と遊離薬物の血中半減期が短いという安全性にも配慮した特徴を有する。抗HER2抗体に本技術を適用した抗HER2 ADC(DS-8201a)をリードプロジェクトとして研究開発を進めた結果、第I相臨床試験により、がん患者における安全性と忍容性、およびHER2発現またはHER2変異を有する乳がん、胃がん、肺がん、大腸がんなど複数の患者での有効性が確認された。現在、第II、第III相の複数の臨床試験を実施中である。さらに、本技術のHER2以外の標的、抗体への適合性も確認され、新規DNAトポイソメラーゼI阻害剤のADC技術の有用性が示されつつある。