抄録
抗体−薬物複合体(ADC)は、抗体に毒性の強い低分子化合物を結合させた化合物である。患部に適切に低分子化合物を送達させることにより、その治療域を拡大するため、次世代抗体医薬品としての期待が高く、認可されたADCの数も増えている。本稿では、ADCの開発に活かされた化学について、合成化学、分析化学の両面から概説する。抗体に低分子化合物を付加させる場合、クラシカルなタンパク質修飾の手法では、多種多様のADCが生成してしまう。再現性や治療域の拡大を目的とした第2世代ADCの開発を目的として、均一構造のADCの合成手法の探索が行われている。搭載薬物を放出するためのリンカーの種類も増えてきた。合成されたADCの詳細な品質評価には、高性能な分離分析技術が必要となる。超高性能液体クロマトグラフィーや高分解能質量分析法による構造解析についても述べる。