抄録
Enhanced permeability and retention(EPR)効果により血管からがん組織内へと漏出したナノDDSは、多くの場合、間質障壁により妨げられ、腫瘍細胞へと到達することができない。間質障壁は、がん細胞と種々の「正常」な細胞の相互作用を通じて形成・維持される。こうした相互作用の場を「がん微小環境」という。がん微小環境中の線維化組織、すなわち主として異常な形質を獲得した線維芽細胞およびこれらの細胞により産生され過剰沈着している細胞外基質により構成される組織は、とりわけナノDDSの送達効率の重要な規定要因として知られる。本稿では、がん微小環境における線維化について概説した後、より効率的なナノDDS送達を実現するうえでの示唆について考察する。