昭和歯学会雑誌
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In Vitroにおける扁平上皮癌細胞の浸潤様式
菊山 智美
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1991 年 11 巻 4 号 p. 459-474

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抄録

癌細胞が結合織中へ浸潤する過程を解明する目的で, ヒト硬膜を酵素処理し, 無細胞性硬膜を作製後, この硬膜上に癌細胞を植え付け, 硬膜中への癌細胞浸潤過程を主として電子顕微鏡的に観察した.また, 正常歯肉由来線維芽細胞との混合培養を行い, 癌細胞の浸潤に及ぼす影響を検索し, 同時に癌細胞単独培養および混合培養での培養液中のコラゲナーゼ活性を経時的に比較検討した.癌細胞の浸潤過程は次の4つのステージに分類された.第1ステージは癌細胞が硬膜と付着し, 増殖する時期である.第2ステージは癌細胞辺縁より細胞突起が出現し, 漸次, この細胞突起が癌細胞基底側全体に形成されるようになる時期である.この時期の細胞突起周縁の硬膜はコラーゲン線維が破壊され, 細線維状となった.さらに進行した第3ステージでは癌細胞質の硬膜内浸潤と共に, 細胞核も硬膜側へ移動するが, なお隣接する癌細胞と部分的結合を保っている時期である・第4ステージは, 浸潤癌細胞は隣接細胞から遊離して単独で硬膜中で増殖する場合と, 2-3個の癌細胞が連続して, 硬膜中へ浸潤し, 癌胞巣を形成する時期である.癌細胞と線維芽細胞との混合培養における癌細胞の浸潤過程は, 単独培養と同様な様相を呈するが, その浸潤は単独培養と比較して, 早期に認められた.一方コラゲナーゼ活性は単独培養では培養10日でピークを示したが・混合培養では単独培養と比較し, その値も高く, またピークを示す時期も培養5日と早い時期に認められた.以上の結果より, 癌細胞の浸潤は基底側の細胞辺縁よりの細胞突起の出現から始まり, 漸次, 細胞突起はその数や太さを増し, 細胞質の一部による基質内浸潤から細胞全体の浸潤像を呈することが明らかになった.この細胞突起の形成は, 癌化細胞が増殖, 浸潤する過程に認められるfocal contactの形成とともにin vivoに認められる癌細胞の浸潤形態と類似した所見であった・また, 癌細胞の浸潤は正常線維芽細胞との混合培養で促進されることが判明し,同時にコラゲナーゼ活性が単独培養と比較し, 有意に高い値を示したことから, 間葉系細胞による癌細胞の浸潤促進作用が示唆された.

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