昭和歯学会雑誌
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チタンの酸化処理が歯科合着用セメントとの接着に及ぼす影響
青山 眞理子
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1994 年 14 巻 4 号 p. 387-400

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抄録

チタンと歯科用合金 (コバルト・クロム合金, 金銀パラジウム合金) を用いて, 異なる表而張力を有する各溶液との接触角を測定した.種々の表面張力に対する接触角の値からジスマン・プロットを作成して, 各金属における臨界表面張力 (γc) を求めた.大気中で加熱処理を施し, 表層に酸化被膜を生成させたチタン試験片を作製し, 酸化物生成にともなう重量変化, 表面性状の観察および蒸留水との接触角の変化を検討した.また未処理および酸化処理を施したチタンと, 各種歯科合着用セメントとの接着強さを測定して, チタンの酸化処理が接着性に及ぼす影響について検討した.ジスマン・プロットから得られた臨界表面張力 (γc) は, チタン>コバルト・クロム合金>金銀パラジウム合金の順序となり, チタンは金銀パラジウム合金やコバルト・クロム合金よりも濡れ性が良い金属であることが認められた.さらに酸化処理を施すことにより, 未処理のチタンに比べ接触角の低下が生じることから, 濡れ性の向上が認められた.600℃, 30分間の酸化処理を行ったチタンで最も小さい接触角を示したが, 800℃, 30分間の処理では酸化物の生成量が著しく増加し, 酸化被膜の肥厚による表面形態の変化が認められた.チタンに対する合着用セメントの接着は, レジン系セメントで最高の接着強さを示し, シアノアクリレート系セメントにおいても良好な接着性を示した.一方, グラスアイオノマーセメント, カルボキシレートセメントでは上記のセメントに比べ, チタンに対する接着性は小さかった.最も濡れの良かった6000℃, 30分間の酸化処理を施したチタンでは, 未処理のチタンに対し, すべてのセメントにおいて接着強さを顕著に向上させた.しかし, 800℃処理での接着力は600℃処理に比べ有意に低下し, 引張試験後の破断面からチタンと酸化被膜界面で剥離を生じていることが観察された.これらのことから, 大気中で加熱処理を行いチタン表層に酸化被膜を生成させることにより, 簡便に濡れ性を向上させることが可能であり, 各種歯科合着用セメントとの接着性を向上させることが判明したため, 加熱による酸化処理は, 歯科臨床において応用可能なチタンの有効な表面処理法の一つであることが認められた.

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