昭和歯学会雑誌
Online ISSN : 2186-5396
Print ISSN : 0285-922X
ISSN-L : 0285-922X
矯正力の違いが脳内c-Fos陽性細胞の発現に及ぼす影響
臼井 美恵子小澤 浩之柴崎 好伸
著者情報
ジャーナル フリー

1998 年 18 巻 2 号 p. 165-173

詳細
抄録

従来矯正治療中の疼痛の評価は, 臨床的に矯正力や装置の種類, 荷重の作用方向などを変化させることで生じる疼痛感覚の変動をある程度主観的に認識するに止まっており, 客観的に表現することは困難とされてきた.しかし, 疼痛という感覚を治療経験や心理状態などの主観的要因を排除し客観的に評価することは, 臨床上極めて有用と考えられる.本研究の目的は, 末梢への侵害刺激により中枢神経細胞にproto-oncogene c-fosの核内蛋白c-Fosが発現することを指標とし, 実験的歯の移動における疼痛の客観的評価法を確立することである.そこで, ラットの上顎左側第一臼歯の近心移動が発現させる脳内のc-Fos陽性細胞の分布を免疫組織化学的に調べ, さらに矯正力の違い (初期荷重0g, 10g, 30g, 90g) が顎顔面領域の痛覚受容ニューロンである三叉神経脊髄路核尾側亜核 (Sp5C) でのc-Fos陽性細胞の発現数に与える影響について検討した.また, 初期荷重10gについて, indomethacin前投与の影響も検討した.初期荷重10gでの延髄から視床下部に至る脳内の陽性細胞の発現分布は, Sp5C浅層部 (I II層), および下行性抑制系核群である外側網様核 (LRt), 傍巨大細胞網様核 (PGi), 弓状核 (Arc), 背側縫線核 (DR), 中脳中心灰白質 (CG) において認められた.三叉神経脊髄路核中間亜核 (Sp5I), 三叉神経脊髄路核吻側亜核 (Sp5O) では認められなかった.indomethacinを前投与した場合は, Sp5C浅層部, および上記の下行性抑制系核群に陽性細胞を認めなかった.臼歯の近心移動を行った際のSp5C浅層部におけるc-Fos陽性細胞は, 移動側では背外側と外側に, 反対側では背外側のみに認めた.上記諸核へのc-Fos陽性細胞の発現は, 矯正的刺激による歯周組織でのprostaglandin産生を経てもたらされたものと思われる.反対側での発現数は移動側よりも少なく, 移動側および反対側のSp5Cにおけるc-Fos陽性細胞の発現数は矯正力に依存して増加していた.以上の結果から, 本方法が実験的歯の移動時に生じる疼痛の客観的評価法となる可能性が示唆された.

著者関連情報
© 昭和歯学会
前の記事 次の記事
feedback
Top