昭和歯学会雑誌
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3次元シミュレーションを用いた片側咬合による脊柱の変化に関する研究
内藤 貴美子堤 定美若月 英三
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2001 年 21 巻 2 号 p. 242-248

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抄録

咬合習癖が頚・肩部の不快症状及び脊柱の側蛮の誘因になると言われている.そして, 歯牙欠損や補綴物の不適合などにより生じた咬合異常により, 片側に強い咬合力が作用する場合があり, また頭頚部, 肩部に不定愁訴を訴える場合, 正常者に比較して頚椎の弯曲が有意に大きいという報告もある.頚椎が弯曲すると, 全身にその補正作用が働き, 頚椎以下の胸椎, 腰椎等にも弯曲が生じ, 全身の各部に疼痛や凝り, 痺れが発現するものといわれている.片側に強い咬合力が加わることにより, 作用側の胸鎖乳突筋や僧帽筋の上部筋束に, 反対側に比して大きな電位が生じることが, 電気生理学的に証明されている.近年, MADYMO (TNO-MADYMOジャパン株式会社) という動的挙動解析ソフトが工学の分野で用いられている.MADYMOは, 剛体モデルとフレキシブルモデルの組み合わせで出来ており, それらは様々な関節によって繋がれているマルチボディシステムをベースに幅広いダミーモデルを利用することにより, 人体の運動という動的システムをモデル化することが出来る工学ソフトウェアであり, マルチボディ技術と有限要素技術とを強力に統合した汎用性の高い動的挙動解析ソフトである.今回, 片側咬合による脊柱の変化を知るために, このMADYMOを用いて, 擬似的脊柱モデルを作成し, 咬合異常における脊柱の3次元的歪みをシミュレーションしてみた.その結果, 片側の胸鎖乳突筋または僧帽筋に負荷を加えた場合, 頭部が作用側に傾き, 頚椎・腰椎は反対側, 胸椎は作用側に突弯することが示された.このことは片側咬合によって, 片側に強い咬合力が加わることによって, 作用側の胸鎖乳突筋や僧帽筋に, 反対側に比して大きな電位が生じることにより, 頭部の重心の偏位を受け, 身体が平衡バランスを保つための補正作用が働くために, このような脊柱に弯曲が生じたものと考えられた.この結果から, 習慣的に強い片側咬合を有する人では, シミュレーションに示されたような, 脊柱を湾曲させる力が絶えず加えられるために, 脊柱に側弯が生じるものと考えられた.

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