2006 年 26 巻 1 号 p. 51-59
シクロオキシゲナーゼ-2 (COX-2) は, 発癌や血管新生など悪性腫瘍の病態への関与が指摘されている.われわれはこれまで, 口腔扁平上皮癌細胞株NAおよびHSG4において, COX-2選択的阻害剤NS-398およびCOX-2アンチセンスオリゴヌクレオチド (COX-2AS) 遺伝子導入が両細胞株の細胞周期調節因子を制御することにより増殖を抑制すること, マトリックスメタロプロテアーゼ2 (MMP-2) および転移関連細胞接着蛋白であるCD44の発現調節を介してマトリゲル浸潤能を抑制することなどを報告してきた.そこで今回, 両細胞株のMMP-9産生能に対するNS-398およびCOX-2ASを用いたCOX-2選択的阻害の効果を検討するとともに, MMP-9の発現を調節する転写因子に対する効果を解析した.その結果, これらCOX-2選択的阻害により両細胞株における培養上清へのMMP-9分泌および細胞中の蛋白発現を抑制すること, MMP-9の発現を調節する転写因子ets-1, ets-2のmRNA発現を抑制すること, さらにはMMP-9の転写因子のひとつであるAP-1の構成要素であるc-Fosのリン酸化を充進することが示唆された.以上の結果から, 口腔扁平上皮癌細胞においてCOX-2を選択的に阻害することにより, 転写因子Etsの発現調節およびc-Fosリン酸化によるMMP-9産生抑制を介して口腔扁平上皮癌細胞の浸潤を抑制する可能性が示唆された.