日本皮膚科学会雑誌
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長期間経過観察したmelanoma患者における血清5-S-CD値の経時的変動とその臨床的意義
清原 祥夫
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1996 年 106 巻 3 号 p. 261-

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抄録

Pheomelaninの主要前駆物質である5-S-cysteinyldopa(以下5-S-CD)は近年melanomaの生化学的腫瘍マーカーとして用いられるようになってきた.とくに患者血清中の5-S-CD値が最も鋭敏で臨床的病勢をよくあらわしており,検体試料としての安定性や採取,保存の簡便性,患者の年齢,腎機能による個人差が少ないなどの点で優れていることが報告されている.今回の研究では長期間にわたり経過観察している自験melanoma患者46例について血清5-S-CD値を経時的に測定し,その変動と臨床経過の詳細な解析を行った.その結果,(1)stageⅠ~Ⅲでは血清5-S-CD値はほとんど10.0nmol/l以下で変動するが,経過観察中に血清5-S-CD値が常に10.0nmol/lを越えるような場合には遠隔転移を来していることが考えられる.(2)stageⅢからstageⅣに進行した例は28例中に4例認められ,その血清5-S-CD値の経時的変動の観察において,stageⅢの期間では正常値域での変動を示していたが,stageⅣに進行してからは有意に高い異常値を示すようになった.(3)stage Ⅳでは値血清5-S-CD値が40.0nmol/lを越えるころから急速な病勢の進行や悪化が認められ,その後の生存期間は2~10ヵ月(平均4.2ヵ月)と極めて不良であった.(4)stageⅠ~Ⅲの術後に血清5-S-CD値は術前に比べ有意な低下を示し,stageⅣでも集学的治療の後,多くの例で血清5-S-CD値の低下が認められ,治療効果の有無についての判定の有用な指標に成り得る場合がある.(5)遠隔転移を来した例でも腫瘍死するまで血清5-S-CD値が異常高値を示さない場合(1例)や遠隔転移を来しながらもなお数ヵ月以上の間,血清5-S-CD値が正常値域での変動に留まった場合(3例)もあった.以上のことからmelanoma患者の血清5-S-CD値を経時的に観察することは遠隔転移の早期発見やその後の生存期間を推測する生化学的パラメーターとなり得,治療効果の有無についての指標になり得る場合があると考えた.しかしstageⅣでも血清5-S-CD値が正常値域での変動に留る場合もあるのでその診断には注意を要すると思われる.

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© 1996 日本皮膚科学会
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