2012 年 122 巻 6 号 p. 1549-1564
1935年,当時東北帝国大学教授太田正雄は映画のシナリオ作成を依頼された.映画は梅毒予防のための啓発映画で,作成されたシナリオは当時熊本医科大学助教授北村包彦に手直しするよう送付された.それは「螺旋形の悪魔」という題名で完成を見たが,しかし,映画は実現しないまま幻に終わった.太田正雄のシナリオは,現在,神奈川近代文学館に所蔵されている.このシナリオには当時の梅毒に対する考え方,歴史,症状そして治療などが記されており,それらを混ぜながらの若い建築家夫婦の梅毒物語である.歴史学的に貴重であり,また皮膚科学的にも興味深い資料である.