日本皮膚科学会雑誌
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色素細胞母斑他1,2疾患に於ける嗜銀線維所見に就て
谷口 馨
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1957 年 67 巻 1 号 p. 1-

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抄録
正常皮膚に於て嗜銀線維が常に存在するのは,表皮,皮膚附屬器官,血管内皮等の基底膜等に限られて居る(Way).然し乍らWayも指摘する如く胎生期には真皮に多量の嗜銀線維を見る.Ranke,Hueck等によつて明らかにされた如く,真皮と限らず一般に間葉は,先づ核を有せざる原形質網として發生,後來核を生ずる(Mesenchymschwamm Hueck).此の海綿様原形質網にそれから2つの重要な變化が起る.その1はその一連の合胞體系から血球,組織球等が分化遊離することである.その2は原線維(primitive Mesenchymfibrille)の分化である.此のものは最初は嗜銀線維であるが,それから彈力線維及び膠原線維が分化する.基底膜の原線維が嗜銀性のまゝ残されることは上述の如くであるが、胎生期間葉の1部は未分化の儘血管外皮に残されるものと考えられて居る(Spielmeyer).このようにして血管外皮に残された未分化間葉(undifferenzierte Mesenchymzellen,Maximow)は,後來修復機轉として或は諸種の病的機轉としての間葉性組織の増殖の基點となる.そしてそれが修復や増殖性炎の場合であるならば,其處に線維の増殖が起るわけだが,その場合も亦最初に現れるのは嗜銀線維である.近時Massonは嗜銀線維形成性組織の1としてSchwann氏合胞體を重視して居る.即ちSchwann氏合胞體の表面は菲薄な嗜銀線維性被膜,Plenk-Laidlaw's webに依つて包まれて居るが,Massonは神經鞘腫の實驗的並に病理組織學的研究に於て此の嗜銀線維は結合織性の由來のものではなくて,Schwann氏合胞體自身に依つて生産されるものであるとした.そして嗜銀線維を含む所の薄い結合織性被膜に依つて包まれた圓儀状の合胞體を形成することを以て,Schwann氏合胞體の特徴として居る.更にまた最近に到つてMassonはこの見解を色素細胞母斑に及ぼし,嗜銀線維の形成を以て母斑細胞のシュワン性起源の證跡の1として擧げて居る.以上,皮膚に出現する嗜銀線維には間葉性起源のものと神經性起源のものと2者がある.著者は動物皮膚(豚鼻),正常人體皮膚(Haarscheibeその他),胎兒皮膚,色素細胞母斑標本62個をはじめとし,青色母斑,Recklinghausen母斑症,Bourneville-Pringle母斑症,黒色上皮腫(Melanoepithelioma Ota)その他のマルピギー細胞増殖等の組織につきPap氏法變法に從つて嗜銀線維を染色,皮膚に出現する嗜銀線維の2元性を念頭に置いてその所見を観察,孝按を考えた.猶,黒色上皮腫に關する所見の一部は川村敎授他敎室員と共著で報告したが,その後に得た所見を追加して綜括孝按した.
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© 1957 日本皮膚科学会
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